野村ともあき【非公式】ブログ|前堺市議会議員

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「大阪市廃止・特別区設置 住民投票」を終えて

11月1日に行われた大阪市の廃止と特別区の設置を問う住民投票は、反対多数で否決されました。開票結果は、賛成67万5829票、反対69万2996票。17,167票差という前回同様の僅差でした。大阪市は存続し、従来どおり府と政令指定都市という枠組みで自治行政が行われることになります。

この間、大阪市廃止の反対運動にお力をいただきました方々に、まずは心より感謝と敬意を表します。本当にお疲れ様でした。

維新の政治手法との対峙

3週間に渡った住民投票運動を振り返ると、体力面よりも精神的にきついものがありました。

賛成派は『今は無いものを目指して、再挑戦が可能』という意識の中で戦っていたと思いますが、反対派は『今ある物を失う、やり直しのきかない一発勝負』という大きな不安や恐怖心に常にさいなまされていました。
例えて言うなら、「住んでいる家を改築しようとする」のと、「財産を奪おうとする人たちから家を守り、失敗すれば家を失う」みたいな違いです。その心理的プレッシャーは比較になりません。

さらに、「自らの背信と欺瞞によって生じる不都合を、相手に責任を転嫁したり一方的なレッテルを貼ったりすることで市民を扇動し、隠蔽すること」(私の過去のブログより引用)は、もはや維新の政治闘争における常套戦術となっていますが、今回も反対派の主張やメディアの報道が徹底的に排撃を受けました。
維新は他者の意見を攻撃すればするほど、自らの欺瞞や虚偽や虚構がうやむやになり支持が上がることをよく知っています。
高い発信力を誇るポピュリストが好んで使う、SNS時代以前にはなかったニューノーマルな扇動の手法です。

これは戦略的に意図してやっているので、話し合いで解決することは不可能で、対抗策は丁寧に「ファクトチェック」するしかありません。

ただ、二度の住民投票の否決を経験したことで、その戦術の限界というか及ぶ効果の範囲のようなものが見えたのは唯一の救いでした。
今後は、いかに精神的な徒労を乗り越えながら、この「民主主義の陥穽」を埋めていけるかが維新政治と対峙するカギとなるでしょう。

このことは住民投票にとどまらない、人類にとっての課題だと感じます。

反対運動の戦略展開について

維新の会は、極めて戦略的に政治闘争に取り組んでいます。政局、組織、広報、運動、戦力どれをとっても他の勢力とは雲泥の差があります。
ですから今回の住民投票に向けては、極めて計画的かつ戦略的に準備をする必要がありました。

住民投票への備えを始めたのはかれこれ1年以上前にさかのぼります。私の手元にある、具体的な住民投票対策を記した一番古い資料のタイムスタンプは昨年2019年の8月でした。第25回参議院選挙が終わった直後くらいです。

2019年夏と言えば、統一地方選、知事市長ダブル選、堺市長選、参議院選挙と、各級選挙で維新が歴史的な圧勝を続けていたさなかで、私は住民投票の実施に強い危機感を持っていました。
そんな中、堺市長選挙で落選していた私に、住民投票対策の準備会のようなものを有志で立ち上げるので手伝って欲しいとお声がけがあり、参加しました。

最初期に行った世論調査の結果は20ポイント弱の差で「賛成多数」。割と絶望的な数字からのスタートでした。
しかし、最終結果は僅差になるであろうことはわかっておりましたし、そもそも実施前に「反対多数」では住民投票自体が実施されません。ボールは維新の側が持っているのです。
「賛成多数」からスタートし、住民投票実施が決定してから追い上げ、ゴールで差し切るという非常に厳しい戦略しか選択のしようがありませんでした。

準備期間中は、コロナの影響や、公明党の変節、自民党賛成派の出現、吉村人気の急上昇など、様々な予期せぬ出来事がありましたが、調査分析、理念、政策、戦略戦術、組織体制などを一つずつ練り上げていきました。

詳細は明かせませんが、それらの中には成果のあったもの、効果のなかったもの、できなかったこと、色々あります。
ここでは、自戒の念を込めて「できなかったこと」を書き留めておきたいと思います。

「対案」に対する考え方

反対運動に取り組む中で、やはり今回も「対案を出せ」という指摘やご意見を数多くいただきました。自民党は「反対」ばかりという声も何度も聞きました。

我々は「対案」を考えていなかったわけではなく、「都構想にはデメリットしかないのでやらずに、政令指定都市としての権限や財源を活かした都市経営をするべき」と主張していたわけですが、具体的な政策となると「中小企業支援や、公教育の再生や、区役所の権限強化」などを挙げるしかありませんでした。しかしこれでは、「大阪をぶっ壊す」「大阪を都にする」のような(ウソもちりばめられた)強烈なインパクトに対抗できなかったのは事実です。

そんな中、今回の住民投票で「特別自治市構想」が注目されました。
特別自治市とは政令指定都市の権限をさらに高める仕組みで、いわば都構想の逆バージョンです。
特別自治市そのものはかなり以前からある考え方で、特に横浜市が熱心に研究を続けています。私も議員時代、横浜市に視察に行き、堺市で制度的に可能かを検討したことがあります。
また、今回の住民投票で大都市制度について関心が高まる中、神戸市や福岡市も関心を示しているという報道がありました。

私は、政策協議の中で都構想の対案としてこの特別自治市を提案しましたが、制度的に法的な裏付けがあるものではないこと、府(議会議員)との調整が必要なことなどを理由に、あまり積極的に採用されることはありませんでした。「そもそも都構想に対案をぶつける必要なない」という意見も根強くありました。
結果、反対派の主張が「批判と否定一辺倒」となったことは認めます。

ただ、対案を出すことが正しかったのかどうかには迷いがあります。曲がりなりにも協定書まで完成している「いわゆる都構想」に対し、未熟な政策で議論を挑むことは、「大阪市廃止そのものの賛否が問われている住民投票」においては、軸がずれるからです。
住民投票は「A案」と「B案」を選ぶものではなく、「A案ひとつ」に対して○か×かを示すものだからです。

ただし、住民投票の結果を受けて多くのメディアや識者が指摘されているように、「いわゆる都構想」に否決という民意が示された今こそ、新たな大都市制度について議論を始めることが求められています。
それは大阪で首長を任されている維新にも、国政与党である自民党にも言えることです。
もちろん「特別自治市」も重要な選択肢になるでしょう。
今後、建設的な議論が大阪から広がることを期待します。

失われた10年」の先へ。

最後に、この住民投票に何かしらの「意義」を見出すとすれば、それは「大阪が、大都市制度の議論について、国内で最も先進的な地域となったこと」です。

我々は、類を見ない規模で行われた「都市を廃止分割する」という壮大な議論の経験を、得難い奇貨として今後の政治、行政に活かしていかなければなりません。

10年にもおよぶ不毛な論争を続けた結果、大阪の経済成長や教育政策は停滞し。都市(まち)は疲弊しました。コロナの影響で、来年はさらに深刻な状況となるでしょう。維新による失われた10年を取り戻すのは容易ではありません。

私も引き続き、何かの一助となれるよう微力を尽くしてまいる所存です。

ありがとうございました。

 

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