【 エッセイ】本に線を引きながら読むことの意義について
最近は電子書籍を買うことも多くなりましたが、まだまだ紙の本を読むことのほうが圧倒的に多いです。
本は好きなのですが、読む時間の方がなかなか取れず、どうしても読む本を取捨選択することになります。結果、ほとんどが仕事に関係する本ばかりになってしまいます。自分としては仕事の本でも楽しいので、別に気にしてませんが、たまに思う存分、小説やエッセイなどを読みたいなあと思うことがあります。
ところで仕事や業務に関する本は、書かれていることをしっかりと身につけないと意味がないのですが、なかなか書かれていることを覚えられません。ウチの小中学生の子どもなんかを見ていると、さらに頭の働きが鈍くなってきたことを実感させられます(苦笑。10代と比べてもしょうがないですが)
記憶力の低下については以前から割と深刻にどうしたものかと思案をしておりましたが、ある時(と言ってもずいぶん前のことですが)ネットで「本に線(アンダーライン)を引きながら読む」方法について書かれた文章を偶然見かけました。内容は「三色ボールペンを使って色分けしよう」みたいな趣旨のやつで、具体的な「線引き術」みたいな部分にはあまり興味を惹かれませんでしたが、「線を引く」という行為の「効果」の部分についてはなんとなく関心を惹かれ、いっぺんやってみようかという気になりました。
後に色々調べて再認識させられましたが、世の中の読書家や勉強家とされる方々の多くが本に線を引きながら読むことを薦めています。
線を引きながら、あるいは書き込みをしながら本を読むことは、読んでいる最中に脳が刺激されますし、線を引いた部分は記憶や印象に残りやすく、後から見直すことも容易であるなど、非常に大きなメリットがあります。
もともと私は割と「気にしぃ」な気質(たち)で、本はきれいなまま保存しておかなければならない、みたいなヘンな固定観念がありました。もちろん本屋で売られている売り物の書籍や図書館の本などは丁寧に扱わないとダメですが、自分の蔵書に対しても帯までちゃんとかけたままブックカバーを付けて読むみたいな感じの扱いをしていました。正直、「不要になったら古本で売るかもしれないので“リセールバリュー”を維持しとこう」という料簡もありました。もちろん線が引かれた本など買い取ってもらえません。
しかし、ここで冷静に思い返してみると、私が古本屋さんに古本を売ったのは最近「二十年間」で2回くらいだと気が付きました。買取金額は忘れましたが、ずいぶん安くてがっかりした覚えがあります。恐らく1冊数百円~数十円程度だったことでしょう。値段がつかなかった本もありました。半日ほどかけて、結構な量をダンボールに詰めて車で運び込んだと思いますが、冷静に考えて労力に見合う対価ではありませんでした。
そもそも高く買い取ってくれるであろう、新しい本、良い本であればあるほど、逆に手放す確率は低いです。
20年間で数千円程度の金銭を得ることと、線を引くことで身につく(かもしれない)知識を捨て去ることのデメリットをよくよく比較するべきだと考えるようになりました。本にしっかりと線を引いて読み込み、知識を自らの血肉とし、さらにそのアウトプットで得られる価値(バリュー)は、20年間で数千円~数万円程度の金銭と釣り合うものだろうか? と考えました。
私たちは何のために「本」を読むのでしょうか。(少なくとも「仕事本」の場合は)知識を得るために読みます。
一方、「本」は何のために書かれているのでしょうか。おそらく、知識を文章として残し社会全体の財産としてすべての人々と共有するためです。
私は本から得た先人の知識を自らの行動に映して社会に役立てるために読書をしています。本は、そのための道具であり、消耗されるものであると考えるようにしました。
勝手な想像ですが、著者の方もきれいに本が読まれるより書いたことが世の中に役に立つ方が本望だろうと思いました。(古本で売買されても著者には一円も対価が渡りません)
線を引くと、誰かにその本を貸す時気になる? いやいや、そんなことそれこそ年に何度もありません。もし人に薦めるほど良い本なら、借りるより買った方が良いはずです。どうしてもその人に読んで欲しいけど、自分の手元の本が汚れているというなら、新品を一冊買って献本するくらいでも良いと思います。
きれいなままで本棚に置いておきたい? これはわからなくもないです。なので、外から眺める用にカバーと帯くらいは別に保管しておいてもいいかもしれません。しかし、汚れたり傷んだ本にも別の趣きや愛着は生まれると思います。むしろ買ってきた直後に帯は捨ててしまうほうが、しっかり読み込むぞという気になって良いかも知れません。
線を引くことに定まった技法やノウハウはないと思います。我流で、自分の好きなように線を引き、好きなことを書き込めば良いと思います。線を引き続けていれば、そのうち、自分なりの方法が定まってくると思います。失敗しても、的外れでも気にしません。おそらくほとんどの確率で、その本は自分しか開かないし、その線は自分しか目にしません。
ここまで読んで、もしあなたが「これからは本に線を引こう」と思ったら、とりあえず本棚からお気に入りの本を一冊選んで、「まえがき」に意味もなく思い切ってガーッと線を引いてみてください。別に大きな花マルを描くとかでも良いと思います。これで書き込むことに抵抗がなくなるはずです。
もしかしたら「線引き読書」を始めた直後は、「ああ、あの素晴らしい何十冊もの本たちも線を引きながら読んでおけばよかった」と、少しだけ後悔するかもしれません笑
春の訪れを感じる季節となりました。皆様、良い読書を。