大阪カジノ・IR 整備計画の何がヤバいのか
■カジノ・IRの誘致を目指す大阪の現状
今、大阪ではカジノ・IR整備の議論が進んでいます。
「IR(Integrated Resort)」とは、ホテルや会議場、展示場、ショッピングモール、エンターテインメントやレジャー機能などを備えた大型の施設で、「統合型リゾート」とも呼ばれます。
世界のIRにはカジノを併設している場合が多くIR=カジノというイメージがありますが、カジノはあくまでIRの中の一施設に過ぎません。カジノのないIRも存在します。
さて日本では、2006年の観光立国推進基本法の制定、2008年の観光庁の設置以降、経済振興と外貨獲得を目的として「インバウンド=訪日外国人旅行者の獲得」に力を注いできました。
そしてその延長線上に成立したのが2018年公布のIR整備法(特定複合観光施設区域整備法)です。この法律は地域振興を目的にIRを整備する中で日本国内にカジノ開設を認めるものでした。
2018年は訪日外国人旅行者数が右肩上がりに増加していた時期で、IR整備には国内のいくつもの都市が手を挙げました。その中で大阪は最も積極的に誘致に取り組んで来た都市です。
大阪において、カジノはもともと2024年、大阪・関西万博が開催される2025年の前年に開業する予定でした。しかしこれは当初からかなり無理のあるスケジュールと言われていました。
それに加え、2019年末に新型コロナウイルスが発生してしまいます。
世界の観光地や観光ビジネスは壊滅的な打撃を受けることとなり、各国のカジノも例外ではありませんでした。
この余波をまともに受ける形で、日本のカジノに進出を検討していた事業者の撤退が相次ぎます。
大阪進出を検討していたカジノ業者も当初は7者ありましたが、結局最終公募に手を挙げたのは一者のみという結果となりました。
■カジノ誘致にのめり込む大阪維新と危うい計画
カジノ誘致に異常なまでの執着を見せてきた維新の会が首長を占める大阪府・市は、ただ一者残った「MGM・オリックス コンソーシアム」に撤退されないよう、あり得ないほどの条件の緩和、優遇措置、公金による経済的支援策を打ち出します。
大阪の万博・IRの会場予定地は、大阪湾に浮かぶ「夢洲(ゆめしま)」という人工島です。
ここは本来廃棄物等の最終処分場で、処分地として使用が続けられている土地でした。島の一部は未だ埋め立てられておらず海面が残っているような状態です。
廃棄物で埋められた土地ですので、当然土壌汚染の恐れがあり、地盤は極めて軟弱で、防災対策もほとんど取られていない場所です。
そもそも人を集めたり大きな建築物を建てることを想定して整備された島ではありませんでした。
立地も非常に悪く、大阪市街からのアクセスは不便極まりない位置にあり、国土軸からも観光動線からも大きく外れています。
観光地としては「最悪」と言って過言ではない条件の土地です。
この劣悪な条件のもとでカジノを開業してもらうために、大阪府市はすでに間接的な経費も含めて4000億円以上もの税金を夢洲整備に投じてきました。
さらに今年に入り大阪市は、788億円という巨額の土壌対策・地盤改良費を「事業者の言い値」で支払うことを決定し、批判が集中しています。
ある大阪市会議員は「大阪市のカジノ事業者への便宜供与は異常だ。財政規律などもはや存在しない。底が抜けた感じがする」と語りました。
通常であれば、一民間事業者に向けたここまでの公金支出が許されるはずがありません。
しかし大阪市の松井一郎市長は「カジノが開業すれば年間550億円の納付金が入って来る。リターンは十分だ」とその理由を強弁します。
ところがこの550億円という金額は極めて根拠の薄弱な、全く信ぴょう性のない数字です。
詳細な制度の説明は別に譲りますが、この550億円の納付金を実現するためには、USJを上回る客をカジノに集め、JRA(中央競馬会)の年間売上の「倍以上」を夢洲の一施設で売り上げ、シンガポールの二つのカジノをあわせたよりも多い粗利を稼ぎ出さなければなりません。どう考えても不可能です。
この「あり得ないほど盛りに盛った数字」は事業者が自ら提示してきたものです。議会でそのおかしさを指摘された市のIR推進担当者は「市側では検証も修正もしていない」と平然と答えたということです。もはやIR事業者に不利になるようなことは一切行わないつもりなのでしょう。
行政としての責任を果たしていないばかりか、大阪府市は自治体として市民のくらしや生命や将来を守るための税金よりも、カジノ業者への便宜を優先したということです。
信じ難いことですがこれが「現代の大阪」の現状です。
■展望のないカジノ事業、しかしいったん契約すると後戻りできない
逆の見方をすれば、ここまでしないと大阪のカジノは進められないほど現実は厳しいということです。
コロナ以前にIRの誘致を検討していた北海道、東京、横浜などは軒並み誘致を断念しました。
現在、大阪以外の候補地である和歌山、長崎についても整備計画が難航しています。
また、収束の兆しが見えないコロナ禍を受けて、世界のカジノ事業者はオンラインへと軸足を移しています。
主要客と見込んでいた中国人富裕層は、国内での締め付けが厳しい上に、わざわざ規模も内容も利便性も劣る大阪のカジノには足を運んでくれそうにありません。
その他、カジノ以外のIR機能の縮小、土壌汚染と脆弱地盤、災害リスクなど、大阪カジノ・IRが失敗すると確信できる要素はいくらでも挙げられます。
ところが、大阪府市とカジノ事業者の契約内容には、これらの課題が生じたときにカジノ事業者はいつでも撤退できることに加え、(土地所有者である)大阪市側の費用負担で、事業のための対策や改善を求めることができるとうたわれていることが明らかになり、その極めて不平等な内容に大阪府民、市民から強い批判の声が上がりました。
それが現在の状況です。
ちなみにカジノ営業の契約期間は「35年」。さらに30年以上延長することが可能となっており、いったん契約してしまうと解約するのは難しく、大阪は半世紀以上に渡ってカジノに縛られることとなってしまいます。
先述したように、市街地から遠く離れた海上の孤島に、24時間営業のカジノをポツンと(夢洲の面積390haのうちIR予定地は60ha)設置し、世界から何千万人の客を集めるという荒唐無稽な事業計画が成功するとは到底思えません。
しかしそれを承知しているかのように、大阪IR株式会社の共同代表を務めるオリックスの高橋豊典氏は、自社の決算説明会および大阪市会で開催された参考人招致の場で、「日本人がカジノの主な顧客である」ことを認めました。
要するに今の大阪カジノ計画は、IR整備法が目指した「地域振興と外貨の獲得」とは全く逆の、「外国企業による日本人からの搾取」を進めるだけのものになってしまっているのです。
整備計画では、大阪カジノの売上額を(にわかには信じられませんが)7兆円と想定しています。
大阪府のGDP(府内総生産)は40兆円弱ですが、その5分の1を博打に費やすようなことを許せば、大阪の経済は間違いなく壊滅してしまいます。
さらに、ギャンブル依存症や治安が悪化することも、開業前の段階から事業者は明確に認めており、数字に表れない「負の影響」も計り知れません。
「子どもたちの未来」どころか、「孫」の代まで禍根を残す「大阪カジノ・IR計画」は絶対に進めてはなりません。
一人でも多くの府民、市民が「強い反対」の声を上げ、メディアや政治家を動かすことが急務です。