堺市議会傍聴記 疑問を感じさせる堺市の議会対応
元堺市議会議員の野村ともあきです。
昨日3月24日、堺市議会が閉会しました。今定例会は予算審議の議会であり、令和4年度一年間に「堺市が何をやるか」を決める大変重要な議論の場でした。
その中で議論が集中したのが「高齢者健康増進施策」関連の予算です。
今議会には「堺市おでかけ応援制度」を縮小する条例案が出されていました。
「おでかけ応援制度」とは堺市で65歳以上の方が公共交通を100円で利用できる制度です。移動支援のほか健康増進、経済振興などの効果があると認められていました。
維新首長の永藤市長は、この制度について選挙中「拡充する」と言っていたにも関わらず、昨年12月の議会で70歳未満を制度の対象から切り捨てる改悪案を提案してきました。
この公約破りに対し議会や市民は猛反発し署名運動にまで発展しました。その結果、議案が否決されたという経緯がありました。
ところがそれから3か月も経たない今定例会に、再び制度を少し変えただけの同様の議案が提出されてきたのです。常識ではあまり考えられない行為です。
当然、維新以外の議会の会派は怒りをあらわにし、議場では「議会軽視だ」と厳しい言葉が飛び交いました。
採決の結果、維新以外の会派の反対で、前定例会に続いて「おでかけ応援制度の改悪案」は否決されました。
一方で、予算審議が続けられる中、同じ高齢者健康増進施策であった大阪府が開発した健康アプリ「アスマイル」に堺市が追加費用を支出する予算が議論の俎上に上ります。
このアプリは現時点ですでに公開、運用され堺市民も大阪府民として利用できるものです。それになぜ新たに費用を追加支出しないといけないのかが議論となりました。
また同じ健康増進施策である「おでかけ応援」の予算は削減し「アスマイル」には予算を支出することは整合性に欠けるのではないかと問う声もありました。
しかし当局は、議論のかみ合わない論点のずれた答弁を繰り返すばかりで、明確な支出の根拠が示されたとは感じられませんでした。
議論の末、公明党から予算の修正案が提案されることとなります。この修正案は自民党、堺創志会などの賛成で過半数に達し一旦可決されました。
ところが驚くことに、これに対し市長は「再議権」を行使します。
「再議」とは議会の議決に対する市長の拒否権のことで、強い効力を持ちます。予算に対する再議の場合、再度議案を可決するためには議会の3分の2の賛成が必要となります。
堺市議会は維新会派が3分の1以上の議席を持っているため、修正案は廃案となってしまいました。
否決後は原案に戻って再度採決が行われることになりますが、予算を成立させないわけにもいかない各会派の思惑と、「議会解散」という事態もちらつく中、原案は可決されました。
公明党会派は予算に関する決議を提案する中で「苦渋の決断」という表現を用い、その心情を伝えました。
今回の議会で私が強く感じたのは、市長以下堺市行政当局のぞんざいな議会対応です。
反発を招くことが必至の議案を提案するのであれば、「なぜその議案が必要なのか」「どのような意義や効果があるのか」「認められないのであれば別の案や落とし所はないのか」を丁寧に話し合うべきだったと思います。
しかし私が聞く範囲ではそのような対応はなかったといいます。
また「再議権」もあまりに効力が強く影響が大きいので、行使する場合には細心の注意や配慮が必要です。議会に対して軽率に行使して良い権限ではありません。
堺市長に限らず、どうも維新の首長には、議会とは「戦うべき相手」、「対立し、闘争に勝つ政敵」とでも捉えている節が感じられます。
堺市選出の日本維新の会幹事長を務める馬場伸幸衆議院議員は、ちょうど今行われている西宮市長選挙の目的を「維新の党勢拡大のため」と述べました。
この言葉にも、維新が市民ではなく自分たちのために政治を行っていることが強く表れていると感じます。
首長と議会はともに民意を受けた市政運営の両輪で、議論を重ねることで、市民の多様な意見に応えて行かなくてはなりません。
議論の機会の少なさ、薄さは堺市の庁内組織にも存在する課題であると聞き及びます。
来年度予算を決める今議会は、本来であればアフターコロナの経済対策や教育の再生などもっと重要な取り組みがあったはずですが、予算を見渡す限り、堺市が何をやりたいのか全く見えてきません。
貴重な議会の審議時間の多くが、徒労に費やされたことを一市民として残念に感じた今議会でした。
さて新型コロナウイルスは収束したわけではありませんが、まん延等防止重点措置の適用も解除されました。子どもたちは春休みに入り、4月からは新年度がスタートします。
新しい年度が少しでも明るいものとなりますように願います。