野村ともあき【非公式】ブログ|前堺市議会議員

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その3 2025年大阪万博 開催に向けての課題 ~2005年 愛・地球博を振り返る(開催準備編)

先にアップしたエントリ「大阪万博 開催への課題」その1その2は、おかげさまで多くのアクセスをいただきました。皆さんの関心の高さに驚くとともに、やはり万博開催については冷静にしっかりと考えることが重要であると改めて感じた次第です。

 

先般策定された大阪万博(2025)の基本構想は、2005年の愛知万博愛・地球博)を参考に立案されたものであることは前述しました。そこで「大阪万博開催に向けての課題」を考える際には、愛知万博開催当時の状況を知っておくことは重要だろうと考え、当時の記録などを調べてみました。すると、「2005年日本国際博覧会 公式記録」と「虚飾の愛知万博 土建国家『最後の祭典』アンオフィシャルガイド」という2冊の書籍に行き当たりました。

 

「公式記録」はその名の通り、愛知万博の事業主体である「財団法人2005年日本国際博覧会協会」が発行した公式の記録です。
後者の「虚飾の~」は、愛知万博を開催前から10年以上に渡って取材してきたジャーナリストの前田栄作氏による著作で、タイトルからわかる通り愛知万博を徹底的に批判した内容となっています。

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2冊は、いわば大本営発表と批判書という位置づけです。また「公式記録」は開催後に、「虚飾の~」は開催直前に著されたという違いもあります。
対極にある2冊ですが、結論から申し上げて、私は「2025年大阪万博に関わる者は全員この2冊を読むべきである」と強く感じました。

 

私は愛知万博には行ってないので、実際の万博の様子も知りませんし、関連する当時のニュースなども特に記憶に残っていません。実は、成功したのか失敗したのかすらちゃんとわかっていませんでした。
しかし、開催前から総括までを賛否両面から克明に記した両書を読み、愛知万博がどのような経過を歩み、どのような結果に至ったのかを知ることができました。そしてそれは、これから大阪万博の成功に向けて総力を尽くさなければならない我々にとって、非常に多くの示唆を与えてくれるものでした。

 

私は時系列に沿って「虚飾の~」から読み始めました。
本書は愛知万博開催前に書かれたので、当然、万博開催中の写真が一切ありません。本書には、開催に至る無理な計画や相次ぐトラブル、開催地を巡る土地疑惑、推進派と反対派のせめぎあいなどが、ほとんど文章だけで淡々と綴られています。筆致は全編を通して重苦しく、万博開催の華やかさや歓喜のような表現は一切ありません。それがかえって想像力を刺激し、演出を極力排除したドキュメンタリー映像のようなリアルさを覚えました。
あとがきにおいて、筆者は「愛知万博は間違いなく赤字となり、愛知県は破綻する」と警鐘を鳴らし、暗澹たる空気感の中で本書は終了します。

 

続いて、実際の開催結果はどうであったか知るために「公式記録」を紐解きました。本書はA4判の大型本で、550ページに渡って「2005年日本国際博覧会」の基本構想から誘致、準備、開催、結果に至るまでの経過が詳細に記録されています。

 

私は本書を開いてまず目に飛び込んでくる、巻頭の万博会場の華々しいカラー写真を見たとき、先に読んだ「虚飾の愛知万博」の寂寥感に満ちた空気から180度異なるその明るい雰囲気に、準備期間中の押しつぶされるような重圧に耐え開催にこぎつけたであろう関係各位の感情に自然と移入させられ、ある種の高揚感のようなものを感じさせられました。
それは様々な苦難を乗り越え開催に至った17年に及ぶ国家プロジェクトを追体験するような不思議な感覚でした。

 

結果を先に言うと、愛知万博は「成功」しました。来場者数22,049,544人、事業収支は129億円の黒字。BIEのロセルタレス事務局長は愛知万博を「類稀なる偉業」と称えています。
しかし、公式記録の冒頭に「閉幕時に新聞各紙は~開催前には考えられなかった極めて好意的な評価を下した」と書かせるほど、開催前の評価は厳しかったようです。それを覆し、万博を成功に導いた裏には、関係者の血の滲むような努力があったことは想像に難くありません。

 

私は大阪万博の成功を願っています。いや、成功させなければなりません。
しかし、現時点において大阪万博が置かれている状況は、同時期の愛知万博よりはるかに厳しいものです。
2025年の大阪万博を成功させるために、私は、関係者全員がその構想の端緒となった愛知万博を丁寧に分析し、その手法を学び、これから何度も直面するであろう困難な局面を打開する際に意識の方向性を共有しておくことが、極めて重要であることを確信しています。

 

そして、本稿がその一助となることを切に願います。

 

それでは両書籍を元に、愛知万博の歴史を見ていくことにしましょう。

 

愛知万博は正式名称を「2005年日本国際博覧会」といい、略称が「愛知万博」、愛称が「愛・地球博」です。

愛知万博は1988年10月に当時の愛知県知事 鈴木礼治氏が誘致構想を提案し、90年2月に名古屋市の東20kmに位置する2000haの森林「海上の森(かいしょのもり)」を会場候補地として選定しました。

 

前出の「虚飾の~」によると、実は愛知県は1988年のオリンピックの名古屋市開催を提案しており、誘致を争った結果、81年の選考でソウル市に敗れています。
その会場候補地もやはり名古屋市東部の丘陵地帯で、周辺の土地を巡っては大規模開発事業が浮かんでは消え、鈴木知事、前々知事、前知事とその支援者らが複雑に関係した土地疑惑の末に、副知事が逮捕、前知事が自殺するという前代未聞の事件にまで発展したとのことです。

 

一方、その後に浮上した万博開催構想も、発案当初から県の「新住事業」とセットにされていました。
新住事業とは新住宅市街地開発法に基づくいわゆるニュータウン開発のことで、高度成長期には全国の大都市郊外で多くのニュータウンが建設されました。
愛知万博には、新住事業によって大規模開発を行い開催後の跡地は宅地とするプランが当初から組み込まれていたのです。ニュータウン開発と万博、どちらが先にあったのかは憶測の域を出ませんが、時はバブルの真っ只中。オリンピックと万博を通して、土地開発に血道をあげた県の遮二無二な姿勢が伺えます。

 

もちろん愛知県や大阪府に何らかの疑惑があるとは言いませんが、オリンピック誘致に失敗した土地で万博を開催するという構図は全く同じであり、関心を惹かれる事実です。

 

「虚飾の~」に当時の鈴木知事の言葉が書かれています。
「万博に1兆5000億の投資を行えば、8兆6000億の経済波及効果が得られる」。

 

構想がスタートしてから地元で誘致活動を担ったのは、愛知県内の産官学の関係者らで作る「21世紀万国博覧会誘致準備委員会」でした。本委員会が94年6月に基本構想を策定、95年末に政府の閣議で了承され、日本として正式に万博を誘致していくことになります。翌96年、BIEに2005年の開催希望を通告。そして97年6月、選考の結果、カナダのカルガリーを破って日本開催が決定します。
誘致構想の発議から実に9年後のことでした。

 

ちなみに、この時の誘致合戦では、事前に立候補を表明していたオーストラリアが経済的な理由から辞退、カナダとの一騎打ちになった結果、未加盟国にBIE加盟を促す多数派工作が激しさを増し、投票権を持つ加盟国が半年で47か国から82か国に増えたといいます。
この辺りも今回の誘致活動に酷似した流れで、日本が開催を勝ち得たのも外務省を中心に政府に誘致ノウハウの蓄積があったからかもしれません。


さて、現在の大阪万博は開催が決定したこの時点に置かれています。ここから具体的な開催のための準備に入っていくわけですが、愛知万博においてそれらはどのような経緯をたどったのでしょうか。

 

政府はまず通商産業大臣を万博担当大臣として指定し、事業主体となる「万博協会」に政府が様々な支援を行うための「特措法」が制定されます。同時に、開催地では愛知県と名古屋市をはじめとする県内の7市町と財界が中心となり、97年10月22日に「財団法人2005年日本国際博覧会協会」(万博協会)が設立されました。当初の基本財産(資本金)は3000万円、各界からの出向者30名の職員でのスタートだったそうです。
これ以降の開催へ向けた準備は万博協会が担うこととなりました。

 

協会は組織づくりや開催基本計画の素案づくりを進め、約1年後の99年1月22日に「会場基本計画案」を発表します。当初の基本構想と同じく「海上の森」を会場とする内容でした。

しかし、豊かな自然の森を万博会場として開発する計画は、基本構想の段階から日本自然保護協会や世界自然保護基金WWF)などの環境団体から強い反対を受けていました。反対派と政府・県との間でせめぎあいが続く中、同年5月12日、環境庁レッドデータブック(絶滅の恐れがある動植物のリスト)に掲載されているオオタカの営巣が会場予定地で確認されます。

 

これをきっかけに環境庁が計画に難色を示すなど、「海上の森」会場計画案は大きくゆらぎ始め、同年7月の企画調整会議では「愛知青少年公園」を会場とする案が提示されるに至りました。「公式記録」には、海上の森から愛知青少年公園へとメイン会場が移っていく会場図の変遷が大きく掲載されています。

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11月15日、会場の視察と登録申請にかかる実務協議のためBIE幹部が来日します。そこで行われた通産省との会談の内容をすっぱ抜いた中日新聞の記事が関係者に衝撃を与えました。「万博の跡地は住宅地にするということだが、これは万博を笠に着た、環境を破壊して行う開発行為ではないか」。BIE幹部は政府に対しこう詰め寄ったと言います。

 

この報道を受けて開催計画は大きく見直されることになりました。
政府は5月に予定されていたBIE登録申請(開催申請)を延期することを決定。4月4日、政府、愛知県、万博協会の間で、会場配置の大幅な変更と新住計画の中止を含む「基本的方向性」の合意がなされます。

 

またこの間には、市民による「万博開催の是非を問う住民投票条例の制定を求める署名活動」が展開され、必要法定数の3倍に当たる32万人もの署名が集まるなど、混乱が続きました。(条例案は県議会で否決)

 

期限が刻一刻と迫る中、ほとんど一からの練り直しと言って良い開催計画の変更作業が急ピッチで進められました。
約半年後の同年12月、日本政府はBIEに対し登録申請を行い、無事承認されます。

開催決定から3年と半年後のことでした。

 

新たなテーマとされたのは「自然の叡智」。環境問題への批判を受けての変更でした。また開催期間、会場エリア、資金計画、跡地利用などはこの時点で正式に決定したものです。

 

さて、ことの真偽は定かではありませんが、「虚飾の~」には、通産省が「海上の森」での開催を強行しようとする愛知県に方針転換させるために、中日新聞に記事をスクープさせたと記されています。

 

会場計画にかなりの無理があることは大阪万博も同様ですし、万博の開催とカジノの誘致が表裏一体であることを、大阪府知事大阪市長をはじめ維新の会は公言してはばかりません。

今後、万博会場跡地をどうするのかという計画はBIEで必ず議論になります。
万博跡地を「隣接する『カジノを含む統合型リゾート施設』の拡張用地に使う」では、到底、国際社会の理解は得られないことを肝に銘じなければなりません。

 

愛知万博の例を見るまでもなく、今後詳細を詰めていく中で経済産業省や外務省は大阪府の計画にある多くの課題に直面することになるでしょう。

時系列で比較すると、愛知万博の最終計画が確定し、BIEに登録されたのが開催の4年4ヶ月前のことでした。2025大阪万博の開催4年4ヶ月前は2021年の1月となります。

それまでの約2年間、我々は万博開催に向けた事業計画を、世界に誇りうる内容とするため、全力で取り組まなくてはなりません。

 
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さて、例によって乱筆乱文のため、大変な長文になってしまいました。
ここから愛知万博の「実際の開催に向けた取り組み」を紹介したいのですが、これまた「開催準備編」以上に大変な内容なので、とりあえず一旦キーボードを閉じ、稿を改めたいと思います。

その2 2025年大阪万博 開催に向けての課題

前回に続き「大阪万博開催に関する課題」について書きます。

前回は主に「建設費」について書きましたが、今回は「運営費」について検証してみたいと思います。
現在のスキームでは、「運営費は入場料等の自己財源で賄う」とされています。つまり税金等の支出は行わず、入場料収入等を運営費に充てるという意味です。

 

前回も書きましたが、大阪万博の「目標来場者数」は3000万人とされていますが、注意しないといけないのはこれは「目標」数値であって「予測」ではないという点です。「予測」に関しては、経済産業省が過去の博覧会の実績から来場需要予測を算出しており、そちらは2820万人とやや少なく見積もられています。が、概ね3000万人レベルの来場者を想定して様々な計画の詳細が練られています。

 

来場者数はすべての計画立案の基礎となっており「運営費」の収支にも直結するものですから、正確な計算が求められます。万が一赤字になるようなことがあれば、その穴を埋めるのは恐らく税金ということになりますから、今後、様々な条件が固まれば、その都度、改めて予測の見直しを行うべきでしょう。

 

この3000万人という数字が最初に掲げられたのは、大阪府の取りまとめた「万博基本構想案」です。この案はわずか4か月の突貫工事で作成されたことは前述しましたが、入念な調査や精緻な設計などを行う時間などあるはずもなく、直近かつ同規模の登録博であった2005年の「愛・地球博愛知万博)」の実績をベースに機械的に様々なデータが割り出されたことが伺えます。

 

例えば、愛・地球博の来場者は2205万人で、事業運営費は最終的に632億円となり129億円の「黒字」でした。収支がトントンとなる採算分岐点は632億円から129億円を引いた503億円で、これを来場者数2205万人で割ると1万人あたりの収入は約0.23億円(2300万円)となり、事業運営費の下限である690億円を0.23億円で割るとぴったり3000万人となります。
690億円という事業運営費が先にあったのか、3000万人という動員目標が先にあったのかはわかりませんが、とにかく愛・地球博を大いに参考にしているのは間違いありません。

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大阪府版基本構想」が国に上程された後、経済産業省が入場者規模を想定していますが、そこにも「会場建設面積を82haと想定すると、3000万人の来場で愛知万博レベルの混雑度とサービスレベルを維持できる」とされており、2025大阪万博愛知万博の「規模感」を目指すことが明言されています。

 

私がしっくりこないのは、具体的な展示の魅力とか万博に対する需要などから3000万人の来場者が見込まれているわけではなく、まず3000万人ありきで計画が積み上げられて行っていることです。決まっているのは「健康・長寿」というテーマだけ。いうなれば「何を作るかは決まっていないけどとにかく3000万人に売れる健康器具を作ろう」とか言って、いきなり設備投資や人材の手配を始めているようなものです。

 

今までは招致できるかわからなかったので、勢いで数字を打ち上げるのも良かったかもしれませんが、これを機会にしっかりと企画から練り直しをし、確固とした論拠に基づいた需要予測を行い、場合によっては規模の見直しも視野に入れて、計画を策定し直すべきでしょう。

 

ここで、この3000万人という目標はどのくらいの動員水準に相当するのか見てみましょう。

 

万博会場の海を挟んだ大阪市側には、国内有数のテーマパークである「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンUSJ)」があります。同パークはインバウンド効果や運営会社の企業努力もあって、近年大変な人気を博していますが、このUSJの「年間」来場者が約1500万人です。
万博の開催期間は180日(6か月)ですので、USJと比較すると半年750万人の実績に対し3000万人の目標ということで、実にUSJの4倍の集客をしなければいけない計算です。
率直に申し上げて極めて高いハードルであると感じます。

 

また、これまで日本国内で開催された万国博覧会の動員実績は、'70大阪万博が6422万人、沖縄国際海洋博覧会('75本土復帰記念事業)が349万人、国際科学技術博覧会('85つくば万博)が2033万人、国際花と緑の博覧会('90花博)が2312万人、先ほど挙げた'05愛知万博愛・地球博)が2205万人となっています。(余談ですが1970年の大阪万博が別格だったというのがよくわかりますね)

 

以上のことから考察すると、2025大阪万博の「来場者数3000万人」という数字は、絶対不可能とは言いませんが、’70大阪万博以外のすべての万博の実績を上回らなければならないレベルであり、生半可な取り組みでは達成できない目標であることがわかります。

 

さて、この膨大な来場者数である3000万人が現実的かどうか検証するために、受け入れ体制がどうなっているか見てみましょう。

 

前エントリで書いたように、会場の夢洲には二本の自動車アクセスルートと、これから建設する予定の地下鉄中央線の延伸経路しかありません。
カギとなるのはやはり大量輸送が可能な地下鉄で、万博成功のためには建設は避けて通れない状況です。

 

大阪市高速電気軌道Osaka Metro)中央線の万博に合わせた延伸計画は、2024年までに咲洲にある現在の終点「コスモスクエア駅」と夢洲を結ぶものです。
現在、中央線は1日に20万人ほどの利用があり、コスモスクエア駅からはピーク時には1時間に9~15本の発着があります。運行する車両は6両編成で1便最大1380名を輸送できるとのことです。
しかし、3000万人の来場者を単純に半年(180日)で割ると、一日あたりの来場者数は16.6万人となり、ピーク時や休日に来場者が偏ることを考慮すると、地下鉄だけで来場者を捌くのは輸送量の面でもルートの面からも不可能です。
結果、鉄道以外の輸送手段を確保することは不可避の状況ですが、経済産業省の試算では「地下鉄を運行間隔3分、乗車率199%で運行」させた場合でも、その他の来場者を輸送するシャトルバスの必要台数が大阪バス協登録台数の半分以上を占めることとなり「課題がある」と指摘されています。
改善案として示されているのはヘリコプターの利用や自動走行システムによる渋滞緩和策とのことですが、それらに実効性(実行性)があるのかしっかりとした検証が必要です。
確実で快適かつ安全な輸送手段の確立は、イベント開催の上で最も重要な課題のひとつですが、この点について事前の検証で解決策が提示されているとは言えず、前途は多難です。

 

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以上、努めて客観的に、数字をベースとした万博の来場者と運営コストについて私の考えを示しましたが、皆さんはどうお感じでしょうか。

 

大事なことなので繰り返しお断りしておきますが、私は万博そのものには反対ではありません。しかし、実現不可能な計画は早い段階で見直すべきだと主張しているのです。
万博は机上の企画から、現実の作業にステージが移りました。今一度、冷静になって企画や計画を一から見直すべきです。

 

万博開催の原資の大部分は税金です。しかもそれを支出する大阪府・市の財政状況は、オリンピックを開催する東京都とは比べ物にならないくらい逼迫しています。数千億円の無駄な支出を吸収できる体力は大阪にはありません。

 

次回は「経済効果とレガシー(仮)」について書こうと思います。

2025年大阪万博 開催に向けての課題 その1

2025年に開かれる国際博覧会(万博)の開催地が大阪に決定しました。国内で開催される大規模万博としては、1970年の大阪万博、2005年の愛知万博以来、20年ぶり3度目の開催となります。
今回の決定は、日本政府が国を挙げて招致に取り組み、開催地である大阪府・市を全面的にバックアップした成果(※1)であり、開催を勝ち得たのはひとまず喜ばしいことであると思います。

 

しかし、これから実際に開催のための事業を進めるにあたっては、「いばらの道」と言って良いほどの険しい道のりといくつものハードルが待ち受けています。行政をチェックする立場である議員としては、その責任の重さに正直、期待よりも不安や心配のほうが先に立ってしまいます。

もちろん、開催が決定した以上、我々は国の威信をかけて全力で万博の成功を支えなければなりません。開催地・大阪においては、空虚な政局論争はいったん留め置き、政治、行政、経済界が大阪の未来のために一丸となって取り組まなければ、この歴史に残る大事業は成し得ないでしょう。

 

私は、関西広域連合が万博招致を支持した際に、関連自治体として招致に関する課題を議会常任委員会で取り上げ、また所属する自民党大阪府政務調査会としても、国に対する要望のとりまとめに関わってきました。
ここではそれらの内容を改めて整理し、本事業に関わるすべての方々と課題認識を共有しておきたいと思います。

 

かなり厳しい内容とはなりますが、私は万博の開催に反対しているわけでも、祝賀ムードに水を差したいわけでもありません。二元代表制を採る地方自治体の議会議員という立場から、疑問に感じるところは疑問として受け止め、それをどう解消していくのか考えるための問題提議として本稿を著す次第です。

 

万博招致活動は、平成28年大阪府が「2025日本万国博覧会 基本構想案」の策定に着手したところからスタートします。私がこの構想案を最初に読んだときの印象は、ずさんとまでは言いませんが、精緻な調査に基づいたものではなく、かなり粗雑な内容だな、というものでした。というのも、大阪府において第1回の万博検討会議が開催されたのは平成28年6月30日のことであり、それから10月28日の会議で構想案がまとめられるまで、わずか4ヶ月の間に4回の会議しか開かれていません。明らかにしっかりとした調査研究などをする時間がなかったのです。万博は当初計画の事業費だけで2000億円を超える大事業ですが、その基本計画がわずか4ヶ月で策定されたことに、私は違和感を禁じ得ませんでした。この内容については大阪府議会、大阪市会でも質疑がなされていますが、各項目の詳細については「これから協議する」という答弁に終始することが多かったようです。

 

それでは計画の内容を見ていきます。

 

■会場用地と建設費用について

万博の舞台となる「夢洲(ゆめしま)」は大阪市の最西端、大阪湾上に位置する390haの人工島です。かつて2008年のオリンピック会場として招致運動が展開されましたが北京市に敗れ、現在は一部がコンテナヤード、メガソーラー、廃棄物処分場として共用されているほかは、大部分が未整備の更地です。また埋め立ても完了しておらず、現在も産廃や浚渫土の受け入れ先となっています。
後述しますが、地理的にアクセスには二箇所以上の橋(トンネル)を経由しなければならず、メインの経路は「此花大橋(このはなおおはし)」と「夢舞大橋(ゆめまいおおはし)」を通るルートか、南ルートである「夢咲トンネル」を通るルートしかありません。

 

390haのうち万博用地は南部の約100haとされていますが、IR(カジノを含む統合型リゾート)の(未決定の)誘致のために北部の70haが確保されており、万博開催のためには30haほど広さが足りません。現在の予定では、前述の未造成の埋立部分を急速施工で造成するとなっています。万博のために、廃棄物の受け入れ先となっている湾を埋め立てるということです。
私が港湾建設に詳しい議員さんに聞いたところでは、わずか2、3年で大型建築物を建てられるだけの地盤の造成ができるとは思えないとの話でした。
さらに埋め立てには漁業への補償や環境アセスメントなども必要となることが予想されます。
ちなみに埋立費用は50億円ほどと試算されています。

 

次に建設予算についてです。
先ほど事業費を2000億円と書きましたが、内訳は会場建設費として1200億~1300億円、開催運営費として690億円~740億円となっています。
会場建設費は文字通りパビリオンや周辺設備などの建設費用ですが、ここには先ほどの造成のための費用やインフラ、夢洲以外の整備費用などは含まれていません。

そのうち最も巨額の費用は、3000万人と設定されている来場者のための交通アクセス増強のための整備で、地下鉄中央線の延伸に540億円~640億円、此花・夢舞大橋の道路改良等に40億円がかかるとの試算がなされています。

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地下鉄中央線というのは夢洲の南東にある咲洲(さきしま)と大阪市内を結ぶ路線で、2008年大阪オリンピック招致時にも延伸が計画されましたが大阪が落選したことで事業が休止しました。前述した夢咲トンネルはそのためのものとしてすでに開通しており、現在は自動車のみが通行できるようになっています。夢咲トンネルの残事業は約1kmの躯体工事と線路、駅舎の設置となっています。

 

また夢洲地域は水道、電気、ガス、通信などの生活インフラも極めて貧弱で最低限のものしか備わっていません。特に大阪市の下水道処理区域に含まれていないため、万博開催時には何らかの下水処理施設の建設が必要となります。
廃棄物に関しては隣の舞洲(まいしま)に大阪市のゴミ処理場があるのでここで処理することになるでしょう。
これらの基盤整備費用については、私の手元にある試算によると280億円となっていますが、粗いものですので今後精査する必要があるでしょう。

 

その他、3000万人に対応する宿泊施設の整備や、既存の物流産業への影響を最小限に抑えることも必要です。特に物流産業への影響は目に見えないコストとなる恐れがあり注意が必要です。というのも、先述のように夢洲には二本のアクセス経路しかありません。ここに期間中3000万人の来場者が殺到し大渋滞が生じた場合、物流機能に障害が生じ、大阪経済に重大な影響を与える可能性があります。

 

同様の視点から、埋立地という立地から災害に対する備えは極めて難しいものになることが容易に予想できます。地震だけでなく、先の平成30年台風21号において、湾岸エリアは特に大きな被害に見舞われました。近年中の発生が予想される東南海・南海地震はもとより、津波や台風、大規模火災などに対しても万全の備えが求められます。これらの対策費用に天井はありません。開催までの期間に「どこまでやれるか」の戦いになるでしょう。

 

以上の費用を考えると、私は当初の建設費だけでも3000億円は見込んでおかなければならないのではないかと感じます。
さらに東京オリンピックの例を挙げるまでもなく、このようなイベント事業は後からいくらでも必要なヒト・モノが出てくるのが常ですので、それらをいかに抑制するかも重要となるでしょう。

 

そもそも費用以前に、海を埋め立てて、海底トンネルに鉄道を敷き、生活インフラを整備し、道路を造り、それからパビリオンなど会場施設の建設するということがわずか6年で可能なのかという疑問もあります。「時間を金で買う」ではありませんが、事業を迅速に進めるためにはさらにお金をかけるしかありません。現実問題として、今後の予算の膨張についてもある程度の備えは絶対に必要となります。

 

■建設費用の負担割合について

さて、この現状1200億円の会場建設費ですが、国・地元自治体・民間等が400億ずつ三等分する計画となっています。国と自治体はやると決めたのですから必ず支出することになりますが、民間に400億円をご負担いただけるかは未知数です。愛知万博では585億円の寄付や現物提供があったそうなので一つの参考にはなりますが、首相以下、関係各位の並々ならぬ努力が求められるでしょう。

 

ところで民間より揉めるかもしれないのが大阪府・市の関係です。大阪府の松井知事は地元負担分の400億円を府・市で折半して200億円ずつと府議会で(大阪市に断りもなく)答弁したそうですが、これはパビリオンなどの会場建設費に限ったことです。本稿でこれまで挙げてきた道路や地下鉄やごみ処理やインフラや宿泊客の受入や防災などの整備とその事務などの費用、人件費などはほとんどが基礎自治体である大阪市の負担となることが予想されます。そもそも万博を開催しようと言い出したのは大阪府ですが、その負担割合に均衡が取れていなければ大阪市民は納得しないでしょう。

 

現在、松井知事、吉村市長を頭にする大阪維新の会は二重行政の解消を掲げて「いわゆる大阪都構想」を進めているわけですが、万博の開催事業は大阪府知事が決めたことを大阪市長が無条件に了承するというブレーキのない状態で話が進んでいます。大阪市長自治を放棄し大阪府知事を阿諛追従するようでは大阪市民は浮かばれません。

 

さらに言うと「いわゆる大阪都構想」は万博開催にとっても致命的です。大阪市が廃止され特別区が設置されると、先に挙げた万博関連の事務事業の所管と組織は全く新しいものとなり、移行にはどう考えても数年の期間が必要です。また移行のための費用にも別途数百億円がかかるとされています。
ただでさえ行政に凄まじい負荷のかかる「政令市の廃止・分割と府への権限・財源の移譲」などという前例のない大事業を、このタイミングで行おうとするのは、本当に大阪府・市という自治体が消し飛んでしまうのではないかと、心の底から憂慮します。
松井・吉村両首長と大阪維新の会には、万博を成功させたいのであれば、ただちに「いわゆる大阪都構想」の議論を休止することをご提言申し上げます。

 

あまりにも長文になりそうなので、一度ここで稿を改めます。続きは近日中にアップします。

次回は「目標入場者計画」などについて書きたいと思います。

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(※1「都市」として立候補するオリンピックと異なり、国際博覧会は「政府」が「国」として立候補します。すなわちこれは「国家事業」であり、招致を主導的に担ってきたのは「日本国」とその政府です。「誰が招致を実現したのか」という浅薄な議論がなされていますが、下記の図の通り開催に支出した費用を比較すれば明らかです。(参考:毎日新聞11月20日記事 

万博:誘致費36億円 大阪府知事「必要経費」理解求める - 毎日新聞

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週末活動報告など

私の誕生日と重なった週末、秋真っ盛りで多くの行事が開催されました。


土曜日は毎年恒例の民間教育保育施設連盟さんとの意見交換会が行われ、地元東区のとみなみこども園さんを見学させていただき、大変貴重なお話を聞かせていただきました。

保育現場の人手不足は深刻なものがあり「現状に対する補助」だけでは解決が難しいように感じます。抜本的な改革が求められるところですが、子育て日本一を目指す堺であれば、他の自治体の手本になるような施策を立案し実行されることを期待します。

私も保育関係者としての経歴のある者として行政に対し具体的な提案をしてまいりたいと思います。


日曜日は朝からソフトボール大会、中学校クリーンアップ作戦とご挨拶をさせていただき、その後、月例の行事などに出席しました。


お昼には産業振興センターで開催されているメイド・イン・堺フェアを訪問しました。本イベントは堺産品を一堂に集めた催しで、会場は歩けないほどの来場者で賑わっていました。皆さん和菓子や穴子、線香に包丁、お茶などなど堺の名産品を買い求めていました。私も、日頃お世話になっているお店もたくさん出展されておりましたので、色々買い物を楽しみました。


午後からはMOA美術館堺市児童作品展の表彰式が堺市役所でありましたので来賓として出席いたしました。どの児童の作品も上手で、子どもたちの素晴らしい感性に本当に驚嘆させられました。


その他も、各会場の周辺では様々な催しが行われていましたが、大変良いお天気でどこも大盛況でした。


夜は予定がなかったので、明日の自民党堺のパーティーで行う「市長と議員の対談企画」の読み原稿などを書いております。せっかくですので楽しんでいただける内容となるよう趣向を懲らそうと思います。ご興味を持たれた方は、当日でもご参加いただけますので是非ご来場いただければと思います。


秋も深まり、昼夜の寒暖の差が大きくなっております。皆様方におかれましてはお体ご自愛ください。

相模原市訪問

10月5日、政務ならびに党務で神奈川県相模原市を訪れましたので報告いたします。

 

 

相模原市は市制施行が昭和29年、2010年に国内19番目の政令指定都市となった比較的新しい大都市ではありますが、その分大きな可能性と活力にあふれており、毎回訪問するたびに新たな発見と大きな刺激をいただいております。

中でも特に大きな出来事がリニア中央新幹線の開通で、これにより相模原市は新たな国土軸と高規格道路である圏央道の結節点となり、現在リニアを軸とする280万人の「スーパーメガリージョン」の中継点として国においても重要な要衝としてソフトハードの整備が進められています。

また市域の3分の2が丘陵・中山間地であり、また市街地の至便な地域に米軍関連の返還済み・未返還の土地が点在しており、今後次の時代の国内の拠点都市として大きく発展するポテンシャルを有した自治体です。産業においてもロボット、IoT、宇宙産業などの次世代の成長産業の集積が進んでいます。

 

 

さて、今回は相模原市さんの医療施策やまちづくりについてお話を聞いたほか、自転車の「自動駐輪場」を視察させていただきました。

これらは前述の国家プロジェクトのような派手さはありませんが、どれも基礎自治体として地道に取り組まなければいけない施策で、人口規模や自治体の特性が似ている堺市としては大変勉強になったところです。

 

また加盟する「政令指定都市木材利用促進議員連盟」の勉強会も当地で開催されましたので、堺市の取組事例として先の高知県視察の報告をさせていただく機会をいただきました。

(こちらは来年度の予算要望や選挙公約としてまとめ、改めてお伝えしたいと思います。)



夕刻からは党の「政令指定都市議員連絡協議会・議会議員連盟」の合同総会が行われたので出席しました。

基調講演では橋本聖子・党参議院会長より「2020年東京五輪を節目とした国づくり」についてお話いただきました。ご自身の選手としてのご経験や考えを踏まえた五輪開催の意義や関連する政策についてのご主張には大変に心を打たれるものがありました。

 

 

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以上タイトなスケジュールではありましたが多様な内容の一日とさせていただき、今後の私の活動にも大きな糧となる訪問となりました。

何かとお世話をいただいたご関係各位に心より御礼申し上げます。

高知県高知市で木材活用、防災対策、図書館整備について視察

高知県高知市堺市議会自民党会派で視察に行って参りました。
今回、私は視察の企画幹事をご指名いただきましたので、色々と事前の調査を行い、堺市政に資する内容となるよう行程を組ませていただきました。

 

初日の最初は、高知県庁にて県産木材の活用について座学レクと現地視察を行いました。
自民党堺市議団は本年度設立された「政令指定都市木材利用促進議員連盟」に所属し、日本の歴史と伝統に根ざした資源である木材の利用促進に取り組んでいます。
高知県は県内の森林面積率が84%と全国1位を誇り、2024年度から全国に導入される森林環境税を全国に先駆けて導入するなど木材利用の先進地域と言えます。国全体で林業振興が課題となる中、大規模な消費地である堺市でどのような取り組みが可能か、県庁の職員さんに教えていただきました。

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現在、木造建築の世界ではCLT(Cross Laminated Timber クロス・ラミネイティド・ティンバー)と呼ばれる建材の利用が急速に拡大しており、これまでの「燃えやすい」「地震に弱い」という木材のイメージが技術革新によって大きく覆されつつあります。実際に海外では木造の高層建築物(80階建てのビルも構想されている)や大規模施設が造られており、日本でも徐々に広がりを見せています。
CLTによる建築物には、大幅な工期の短縮やデザインにおける自然の美しさや優しさ、環境面などから様々なメリットがあり、公共部門による戦略的な普及促進を進める意義があります。

 

高知県では昨年度条例を定めて、県の公共施設には原則県産木材を使用することを義務付けており、様々な施設で木造、木質化が進められています。
座学の後、その実例として「高知県自治会館」を視察させていただきました。本施設は県内の市町村が共同で事務等を行うための施設で、津波の関係で地上3階まではRC造となっていますが、4階から6階までは木造となっています。
内外装ともに素晴らしいデザインの建築物で、改めて木の持つデザインの美しさに触れ、感動させられました。

 

国が木材の活用を推進する中で、全国の都市部の非住宅建築物はほとんどが木造以外で作られているのが現状であり、これを木材に置き換えていくことは、木材消費地である堺市にとっても重要なミッションです。
是非とも木造公共物の建設を市内で実現することを目指したいと思います。


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次に、今年の7月にオープンしたばかりの図書館を中心とした複合施設「オーテピア」を視察させていただきました。

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近年、これまでの常識とは異なるコンセプトの図書館が話題を集めていますが、この施設は、県立図書館と市立図書館を統合するという全国初の事例として大変注目を集めています。その運営方法も非常に先進的かつ個性的で、構想から10年を経て四国最大の図書館施設として開設されました。

 

現在、堺市においても中央図書館が更新期を迎え、その整備について議会でも議論が活発化しています。現在はまだ基本構想もない段階ですが、全国の先進的な図書館についてはできる限り情報を収集しておくことが重要であると考えています。

 

さて、オーテピアにはオープン以来3ヶ月で高めに設定した来館者目標をさらに上回るペースで人が訪れているとのことで、実際私たちが訪れた夕方には近隣の高校生で館内があふれていました。開架スペースはもちろん学習室や談話室も満席で、皆テーマパークにでも来ているかのように楽しそうにしている風景は、堺市の図書館ではちょっと考えられない風景でした。

 

点字図書館と科学館を併設する5階建ての本施設は、高知市で最も古い小学校のひとつだった旧追手前小学校の跡地に、県立図書館と市立図書館をともに移転統合して建設されました。移転統合には県市それぞれに反対の声があったそうですが、それらに地道に答えることで、全国に例のない県市連携の事業を成し遂げた関係各位のご努力に感服させられました。

 

明るくデザイン的な館内、私語OK、勉強可能、飲食スペースあり、ビジネス支援機能の強化、地域生涯学習支援、魅力的なイベントの開催などなど、全国に広がりつつある新コンセプト図書館の「ツボ」をしっかりと押さえながら、オーテピアがこだわったのは「統合で浮いた図書館経費はすべて新たな図書館運営に使うこと(つまり効率化ではなく機能の充実)」という方針だそうで、開館後には図書館司書を増やしレファレンスに徹底的に対応する体制が取られました。


また、近年は配架や書庫の自動化技術の進展も目覚ましいですが、オーテピアではできるだけ職員による作業を重視し、図書館職員の知識や技能の蓄積や向上を図っているとのことです。こういうことは予算がなければできませんし、極めて公共性の強い図書館という施設においては本当に重要なことであると感心いたしました。
なお言うまでもないことですが、オーテピアは指定管理等ではなく行政による直接運営です。

 

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翌日は高知市役所を訪ね、基礎自治体としての防災対策についてお話を伺いました。
ご承知の通り、高知市高知県)は地理的に南海トラフに最も近く、南海・東南海・東海地震の発生時には甚大な被害が予想されます。自治体は強い危機感をもって防災対策に取り組んでおられます。

 

当日は、議員団の有志で早朝から五台山という小高い山に登り、展望台から高知市内を眺望しました。天気も良く、素晴らしい眺めではありましたが、高知市は深く入り組んだ入江(浦戸湾)とせり立った中山間地が独特の地形の市域を構成しており、市民の住環境や避難方法がそれぞれの地域によって大きく異なるであろうことがわかりました。しかし高知市行政は、このような困難な環境の中で着実に防災対策を進捗させており、私はどのように、特に住民の防災啓発の面で対策に取り組んでいるのか強い関心を持ちました。

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市役所でのレクチャーでは多くのお話を聞く中で、過去の事例とエビデンスに基づく防災行動の啓発とハード、ソフトの整備を進めていることが特徴的であると感じました。
私が特に堺市でも取り入れたいと思ったのは防災士資格取得のための支援制度と費用助成です。私自身、議員となる前のことですが、堺市の支援で防災士資格を取らせていただきました。しかし現在では堺市の全額補助制度はなくなり、防災士の養成が進んでいないのが現状です。
高知市さんの取り組みは防災士の資格取得の全額補助ではありませんが、資格取得までは行かない方でも一緒に研修が受けられる仕組みで、市内615人の防災士に対し2,012人が研修を受講しており、その方々はそれぞれの地域の防災リーダーとして、地域に応じて知見を活かしているとのことでした。公助の行き届かないところには、このような取り組みで草の根のように防災意識を根付かせていくことが大変重要であると認識させられた次第です。是非、制度として参考にして参りたいと思います。

 

講義の後、桂浜の対岸にある種崎地区の避難タワーを視察いたしました。
日常使う施設ではないので簡素な造りではありましたが、堺市においても臨海部のスポーツ施設、商業施設、工場地帯などにおいて津波避難対策は大きな課題です。施設の構造や規模感などを実際に目で見ることができ、大変参考になりました。

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この度の視察では、私自身の関心から無理な行程を組ませていただき、詰め込み気味のスケジュールとなったことに少々反省をしておりますが、同行の議員から「大変学びの多い内容だった」との意見をいただきホッとしたところです。
何かとご手配、お世話をいただいた高知県庁、高知市役所、高知県市町村総合事務組合、そして堺市議会事務局の皆様に心より感謝し、今後の堺市政にしっかりと活かしてまいりたいと思います。

堺市議会第3回定例会(8月・9月議会)が閉会しました

主に前年度決算を審査する、堺市議会第3回定例会(8月・9月議会)が閉会しました。

 

今定例会、私は本会議代表質問、総務財政委員会、決算審査特別委員会総括質疑と会期を通して質問に立ちました。詳細は後日公開される議事録に譲りますが、以下に各質疑の概要だけをご報告させていただきます。

 

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議会はまだ残暑の残る8月末に開会しました。

9月に入ってすぐ行われた本会議代表質問で私は、平成29年度決算における「教育環境整備」「起債の意義」「超少子高齢化社会」「医療環境整備」「百舌鳥・古市古墳群世界文化遺産登録以後の取り組み」について堺市当局の財政の方向性と中長期的な展望について質問をしました。

教育環境の整備では今夏の異常な暑さを受け、堺市が昨年度中に公立学校園へのエアコン設置を完了していることを評価いたしました。政令市であってもエアコン設置が進んでいない自治体があり、国での予算化もこれからという中、堺市がいち早くエアコン設置を完了させたことは、事業の先見性から評価できます。多くの学校施設が更新期を迎える今後も、計画的効率的に環境整備を進めるよう要望いたしました。

一方で、学校やインフラなどのハード整備には多額の予算が必要です。通常、地方公共団体はこれらの整備に「起債」という方法で債権を発行し市場から資金を集めますが、このことがよく「自治体の借金」として槍玉に挙げられます。「借金は悪いこと」という意識が社会に根強くあるためと思われますが、公共部門の支出は社会全体のために使われるものですので、個人のそれとは意義が異なります。少し難しい話になるので詳細は別稿に改めますが、社会資本整備を行わないと社会の発展はありませんし、それを起債で補うことは将来世代との負担の公平性や、各年度の歳出の平準化、便益の発生の即時性などから大きな意義があることを確認し、財政当局に対しては投資の効果が最大化されるよう努力を求めました。

次に超少子高齢化社会到来への備えと医療環境の整備について質問しました。
私は「第三次ベビーブーム」を起こせなかったのは国の大きな失政であると考えていますが、過ぎたことを嘆いても仕方がないので、中央、地方の政府部門は、すでに不可避となった超少子高齢化社会をどう乗り切るかを考えなければなりません。
第一次ベビーブーム世代が後期高齢者年齢に達するいわゆる「2025年問題」をひとつの区切りとして、危機的な状況にある介護保険事業制度と、近畿大学医学部附属病院の移転などで大きく変わる市内の医療環境の整備について、的確に対応するよう要望し、また政令市として先進的な取り組みを示すことで、全国のモデルケースとなるような役割を果たすよう求めました。

最後に、いよいよ来年に迫った百舌鳥・古市古墳群世界文化遺産登録に向けて、昨年度までの評価とそれ以降の取り組みについて方向性を確認しました。平成19年に、堺市大阪府羽曳野市藤井寺市の4者が共同で文化庁に対し世界遺産暫定一覧表記載資産候補として「百舌鳥・古市古墳群」を提案してから今年で11年になります。この間、百舌鳥古墳群周辺の環境整備は著しく進んだことは評価いたします。
私の子どものころは天皇陵、古墳の周辺は荒れ果てた状態で、景観や環境も良くなかった記憶があります。また戦後の経済優先、歴史伝統文化の軽視の風潮から100基以上あった天皇陵と古墳のうち半数以上が破壊されたことは、百舌鳥の地が紡いできた1500年の歴史上、最悪と言って良い「汚点」であり、子孫に対する慚愧の念に堪えられない思いを感じています。
環境整備には多額の予算が必要です。また市民意識の向上にも象徴的な契機を設けることが重要です。

世界文化遺産登録は、1500年以上に渡るこの地の歴史を、さらなる100年、1000年先の次代へつなぐための事業であることを強く意識し、堺市当局には高い志と崇高な理念で、古墳群の保存、継承にあたっていただくことをお願いしました。


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代表質問の翌日は、台風21号到来のため議会は休会となりました。既報の通り、台風21号の被害は甚大で堺市堺市議会としても復旧、復興に追われました。
そのような状況下で、台風到来の10日後に行われた総務財政委員会では、当初予定していた質問内容を変更し、災害対応に絞って質疑を行いました。
今回の台風通過後、堺市への問い合わせが殺到し電話回線が輻輳(パンク)したことへの状況確認と今後の対策。緊急時の職員間の連絡方法の改善と再構築について。主に、緊急時の初動における庁内の安否確認、連絡、情報共有の方法について確認しました。
著しい被害のあった災害ではありましたが、それぞれ今回の経験をしっかりと検証し、今後も発生が予想される新たな災害に備えるよう要望をいたしました。

また総務財政委員会では久しぶりに委員間討議を行いました。テーマは「行政評価について」。
決算審査では、堺市の約1,000項目に渡る事務事業について、予算執行は適正であったか、事業の効果はどうであったかなどを議会として審査しますが、すべてをつぶさに審査することは現実的には困難です。
討議では、先日委員会で視察した町田市さんの「自治体間ベンチマーキング」などを参考に、堺市における事務事業評価のあり方についてなどを議論しました。町田市さんの取り組みは先進的でまた効果も顕著なものであることを全会派の議員が認めておりましたので、非常に良い議論ができたと感じました。


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さて、会期も終盤となり決算審査特別委員会が開催されました。総務財政委員会から連休をはさんで中二日というタイトなスケジュールでしたが、私からは以下5項目の事業について、効果と今後の取り組みを質問しました。
■災害に対する財政面の備えについて
熱中症対策について
■さかい子ども食堂ネットワークについて
■国際交流員招致事業について
■自転車まちづくりについて

まず「災害に対する財政面の備え」として、堺市では『堺市大規模災害被災地等支援基金』を設置しており、大規模災害発災時に必要となる緊急の復旧復興のための支出に備えています。基金残高は4億3千万円ほどですが、当然のことながら東南海南海地震のような大規模地震が起きた場合、この額ではとても足りません。この場合、国へ財政的支援を要請することになりますが、発災直後は一刻を争う状態なので、平時から迅速な要望ができる体制構築に努めるよう求めました。

続いて本会議代表質問でも取り上げた「暑さ対策」について市立学校園の現状について尋ねました。特に取り上げたのは「熱中症指数計」の整備状況についてで、現状、備品としては安価なため学校現場では消耗品費から校長の専決で整備をしているとの答弁でした。私は最低でも1校1台の整備を教委として行うべきと考えておりますので、安価であるのであればなおさら確実な整備を行っていただけるよう、今後要望していきたいと思います。

子ども食堂については、本年から私の地元でも開設されるなど、着実に事業の進捗が見られます。質問では他市の事例等も紹介しながら、事業継続性にも留意した施策の実行をお願いしました。

次の国際交流員招致事業とは、一般社団法人自治体国際化協会という組織が実施している外国青年を任用する制度(JETプログラム)です。先の災害時等を顧みても、日本人職員では対応が難しい外国人のための業務は多く様々な需要があると考えられます。決算面から見ると、実は任用のための費用はほとんどが国の補助(交付税加算)となっているため大変「お得」な制度であるので、今後の積極的な活用を求めました。

最後の「自転車まちづくり」については、私の強い思いを込めて質問をさせていただきました。
昨年5月に施行された自転車活用推進法に基づき、本年6月、国の「自転車活用推進計画」が閣議決定されました。これから日本は健康的で環境にやさしい自転車の利用を国を挙げて推進していくことになります。今後は全国の自治体が地方版「自転車活用推進計画」を策定し、それぞれの地域で自転車のまちづくりを進めていくこととなります。
堺市は自転車の世界的企業であるシマノが立地し、古くは鉄砲産業にまで歴史をさかのぼる自転車産業の町です。堺市は早くから「自転車のまち」を標榜し、大規模大会の誘致や走行環境の整備、シェアサイクルなどの先駆的な事業を展開してきました。しかしながら近年の自転車ブームによって、自転車をまちづくりや観光の目玉に活用しようとする自治体が急増し、堺市が自転車施策で後れを取っている現状に私は強い懸念を抱いています。
今回の質問では、私個人の具体的なアイデアも提示しながら、「自転車の聖地」として堺市が名をはせるくらいの取組みを進めるよう強く要望をいたしました。
具体的なアイデアの内容につきましては、別途まとめて私の政策として公表したいと思います。


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今定例会の会期中には大きな災害や、また自民党の総裁選もあり、大変あわただしい日程となりました。この後の議会の動きとしては、決算審査が終わり来年度の予算要望というのがが例年の流れです。
来年には統一地方選挙もありますので、しっかりと堺市政の発展のため、また堺市民の生活に資する予算の編成を要望してまいりたいと思います。