その2 2025年大阪万博 開催に向けての課題

前回に続き「大阪万博開催に関する課題」について書きます。

前回は主に「建設費」について書きましたが、今回は「運営費」について検証してみたいと思います。
現在のスキームでは、「運営費は入場料等の自己財源で賄う」とされています。つまり税金等の支出は行わず、入場料収入等を運営費に充てるという意味です。

 

前回も書きましたが、大阪万博の「目標来場者数」は3000万人とされていますが、注意しないといけないのはこれは「目標」数値であって「予測」ではないという点です。「予測」に関しては、経済産業省が過去の博覧会の実績から来場需要予測を算出しており、そちらは2820万人とやや少なく見積もられています。が、概ね3000万人レベルの来場者を想定して様々な計画の詳細が練られています。

 

来場者数はすべての計画立案の基礎となっており「運営費」の収支にも直結するものですから、正確な計算が求められます。万が一赤字になるようなことがあれば、その穴を埋めるのは恐らく税金ということになりますから、今後、様々な条件が固まれば、その都度、改めて予測の見直しを行うべきでしょう。

 

この3000万人という数字が最初に掲げられたのは、大阪府の取りまとめた「万博基本構想案」です。この案はわずか4か月の突貫工事で作成されたことは前述しましたが、入念な調査や精緻な設計などを行う時間などあるはずもなく、直近かつ同規模の登録博であった2005年の「愛・地球博愛知万博)」の実績をベースに機械的に様々なデータが割り出されたことが伺えます。

 

例えば、愛・地球博の来場者は2205万人で、事業運営費は最終的に632億円となり129億円の「黒字」でした。収支がトントンとなる採算分岐点は632億円から129億円を引いた503億円で、これを来場者数2205万人で割ると1万人あたりの収入は約0.23億円(2300万円)となり、事業運営費の下限である690億円を0.23億円で割るとぴったり3000万人となります。
690億円という事業運営費が先にあったのか、3000万人という動員目標が先にあったのかはわかりませんが、とにかく愛・地球博を大いに参考にしているのは間違いありません。

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大阪府版基本構想」が国に上程された後、経済産業省が入場者規模を想定していますが、そこにも「会場建設面積を82haと想定すると、3000万人の来場で愛知万博レベルの混雑度とサービスレベルを維持できる」とされており、2025大阪万博愛知万博の「規模感」を目指すことが明言されています。

 

私がしっくりこないのは、具体的な展示の魅力とか万博に対する需要などから3000万人の来場者が見込まれているわけではなく、まず3000万人ありきで計画が積み上げられて行っていることです。決まっているのは「健康・長寿」というテーマだけ。いうなれば「何を作るかは決まっていないけどとにかく3000万人に売れる健康器具を作ろう」とか言って、いきなり設備投資や人材の手配を始めているようなものです。

 

今までは招致できるかわからなかったので、勢いで数字を打ち上げるのも良かったかもしれませんが、これを機会にしっかりと企画から練り直しをし、確固とした論拠に基づいた需要予測を行い、場合によっては規模の見直しも視野に入れて、計画を策定し直すべきでしょう。

 

ここで、この3000万人という目標はどのくらいの動員水準に相当するのか見てみましょう。

 

万博会場の海を挟んだ大阪市側には、国内有数のテーマパークである「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンUSJ)」があります。同パークはインバウンド効果や運営会社の企業努力もあって、近年大変な人気を博していますが、このUSJの「年間」来場者が約1500万人です。
万博の開催期間は180日(6か月)ですので、USJと比較すると半年750万人の実績に対し3000万人の目標ということで、実にUSJの4倍の集客をしなければいけない計算です。
率直に申し上げて極めて高いハードルであると感じます。

 

また、これまで日本国内で開催された万国博覧会の動員実績は、'70大阪万博が6422万人、沖縄国際海洋博覧会('75本土復帰記念事業)が349万人、国際科学技術博覧会('85つくば万博)が2033万人、国際花と緑の博覧会('90花博)が2312万人、先ほど挙げた'05愛知万博愛・地球博)が2205万人となっています。(余談ですが1970年の大阪万博が別格だったというのがよくわかりますね)

 

以上のことから考察すると、2025大阪万博の「来場者数3000万人」という数字は、絶対不可能とは言いませんが、’70大阪万博以外のすべての万博の実績を上回らなければならないレベルであり、生半可な取り組みでは達成できない目標であることがわかります。

 

さて、この膨大な来場者数である3000万人が現実的かどうか検証するために、受け入れ体制がどうなっているか見てみましょう。

 

前エントリで書いたように、会場の夢洲には二本の自動車アクセスルートと、これから建設する予定の地下鉄中央線の延伸経路しかありません。
カギとなるのはやはり大量輸送が可能な地下鉄で、万博成功のためには建設は避けて通れない状況です。

 

大阪市高速電気軌道Osaka Metro)中央線の万博に合わせた延伸計画は、2024年までに咲洲にある現在の終点「コスモスクエア駅」と夢洲を結ぶものです。
現在、中央線は1日に20万人ほどの利用があり、コスモスクエア駅からはピーク時には1時間に9~15本の発着があります。運行する車両は6両編成で1便最大1380名を輸送できるとのことです。
しかし、3000万人の来場者を単純に半年(180日)で割ると、一日あたりの来場者数は16.6万人となり、ピーク時や休日に来場者が偏ることを考慮すると、地下鉄だけで来場者を捌くのは輸送量の面でもルートの面からも不可能です。
結果、鉄道以外の輸送手段を確保することは不可避の状況ですが、経済産業省の試算では「地下鉄を運行間隔3分、乗車率199%で運行」させた場合でも、その他の来場者を輸送するシャトルバスの必要台数が大阪バス協登録台数の半分以上を占めることとなり「課題がある」と指摘されています。
改善案として示されているのはヘリコプターの利用や自動走行システムによる渋滞緩和策とのことですが、それらに実効性(実行性)があるのかしっかりとした検証が必要です。
確実で快適かつ安全な輸送手段の確立は、イベント開催の上で最も重要な課題のひとつですが、この点について事前の検証で解決策が提示されているとは言えず、前途は多難です。

 

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以上、努めて客観的に、数字をベースとした万博の来場者と運営コストについて私の考えを示しましたが、皆さんはどうお感じでしょうか。

 

大事なことなので繰り返しお断りしておきますが、私は万博そのものには反対ではありません。しかし、実現不可能な計画は早い段階で見直すべきだと主張しているのです。
万博は机上の企画から、現実の作業にステージが移りました。今一度、冷静になって企画や計画を一から見直すべきです。

 

万博開催の原資の大部分は税金です。しかもそれを支出する大阪府・市の財政状況は、オリンピックを開催する東京都とは比べ物にならないくらい逼迫しています。数千億円の無駄な支出を吸収できる体力は大阪にはありません。

 

次回は「経済効果とレガシー(仮)」について書こうと思います。