野村ともあき【非公式】ブログ|前堺市議会議員

野村ともあきの非公式ブログです。前堺市議会議員 公式ブログは→https://note.com/nomuratomoaki/

大阪市立大学との統合に伴う大阪府立大学中百舌鳥キャンパスの移転には反対です。

大阪府立大学は、官立の獣医学、農学、工業、青年師範学校などを母体として、1949年に新制大学である「浪速大学」として発足しました。伝統的に獣医学、農学、工学の分野に強みを持ち、現在では生命科学情報工学、物理化学などに学域を広げています。
起源となる獣医学講習所が創立された1883年から現在に至る130年以上の歴史の中で、膨大な研究成果が蓄積されており、その沿革からわかる通り、まさしく堺市における「知の集積拠点」として、地域に計り知れない知的恩恵をもたらしてきました。

 

その府立大学が現在、「二重行政の象徴」として大阪市立大学との統合・移転の憂き目にあっています。

 

私は府立大学が立地する地域の選出議員として、統合・移転の問題が出てから、幾度となく議会質疑等を通じて、大学また中百舌鳥キャンパスの存続を訴えかけて来ました。この問題については堺市議会で一番取り上げてきた自負があります。

 

昨年30年2月の大阪市会で、大阪市の吉村洋文市長は公明党議員の質問に対し、「府大と市大の統合にあたってはキャンパスを集約し、森之宮が移転の有力な候補地である」「同種の学部学科は集約を検討する」「新キャンパスの建設費用は、既存キャンパスの土地の売却益等を財源とする」旨の答弁を行いました。

 この答弁は多くの関係者にとって寝耳に水の発言で、二大学の統合・移転ありきで話がされていることに、私も非常に驚きました。

大阪市会 会議録検索
http://search.kaigiroku.net/kensaku/city-osaka/menu.html

(平成30年1月、2・3月定例会常任委員会(都市経済)-02月16日)

 

府大市大の統合議案は、平成29年9月に大阪府議会で可決された後、大阪市会では継続審議となっていたものでしたが、結果的にはこの2月議会で大阪維新の会公明党による賛成多数で可決され、本年(2019年)4月から新法人に統合されることになりました。

このことは地元にとってはかなり大きなニュースなのですが、大阪市内のことなので、堺市の議員等で問題提議する人はあまりいませんし、堺市民もほとんど知らないのではないかと思います。

私は、大阪府立大学中百舌鳥キャンパスの移転ありきで話が進んでいることに強い焦燥感を覚えています。

 

SNSなどに何度か書いたことですが、私はそもそも「大学を減らす」ことが『改革』なのかという点に、大きな疑問を持っています。


都市にとって大学は「無駄な施設」なのでしょうか?

 

府市二つの大学は、創設の経緯や、建学の理念、校風などが異なり、それぞれの歴史や伝統を持っています。また、同じ学部学科でも、それぞれ強みや研究成果を持つ分野は大きく異なります。

志願者数においても両大学ともに倍率が1.0倍を切ることはなく、学部を絞ったり入学定員を削減することは志望者の学ぶ機会を著しく奪うことになりますし、(よく理由にされる)経営の観点からもマイナスです。


ここで、大阪府と近隣府県の公立大学の数を比較してみましょう。

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ご承知の通り、大阪府は近畿の中でも飛び抜けて人口の多い都市です。しかし、表の通り、人口に対して(国)公立大学の数は最も少なくなっています。人口割合ではなく絶対数でも、和歌山県以外の府県より少ないという状況で、大阪の大学環境は極めて貧弱であることが一目瞭然です。(なお、この傾向は私立大学を含めても同様です。)

大学を誘致できるなら誘致したいという自治体もある中で、なぜ優秀で学費も安く人気も高い、歴史も伝統も実績もある公立大学を減らなさなければならないのでしょうか。理解に苦しみます。

 

大学は、それぞれの地域における、まちづくり、産業、学術研究の拠点として、不可欠な施設です。堺市にとっても、大阪府立大学中百舌鳥キャンパスは、歴史的に見ても現在においても、絶対に必要な存在であることは強く訴えておきたいと思います。

 

府大市大の統合については、そのスキームにおいても課題が多く、作業が難航していると聞きます。「大阪市をなくす前提の都構想」がここにも影を落としています。
皮肉なことに、その間に各大学における様々な改革は進み、成果も上がって来たと言います。都構想議論全般に言えることですが、要するに膨大なコスト(ヒト・金・時間)をかけて効果が不明な大学統合などしなくても、改革はできるということです。
展望なき政治判断によって学問や研究分野の方々が振り回されるのは本当に気の毒でなりません。

 

我々自由民主党大阪府議会議員団を中心に、新大学法人設立後もそれぞれの大学を残す「1法人2大学」を主張しております。
個人的には法人の統合も不要だと思いますが、すでに決定してしまったことなので、せめて大学組織だけは2大学が堅持されるよう、これからも立地自治体の議員として働きかけを行ってまいるとともに、中百舌鳥キャンパスの移転には強く反対していく所存です。

その4 2025年大阪万博 開催に向けての課題 ~2005年 愛・地球博を振り返る(投資と経済効果編)

年末年始をまたいで少し間が開きましたが、「大阪万博開催に向けての課題 その4」について書きたいと思います。

本ブログでは、「その1」で会場建設等ハード整備上の課題について、前々回「その2」では開催計画などのソフト面の課題、そして前回エントリ「その3」では今回の大阪万博ロールモデルとした2005年の愛知万博がどのようにして開催に至ったのかを振り返りました。

 

本ブログの中で何度も繰り返し言って来ましたが、私は万博開催に「賛成」です。
私がこれらの課題を指摘し続けるのは、祝賀ムードに水を差したいわけでも、開催準備の足を引っ張りたいわけでも、ましてや政局を巡るポジショントークからでもありません。

私は、1970年の大阪万博や2005年の愛知万博にも、日本の現代史上において刮目すべき意義があったと考えていますし、今回の2025年大阪・関西万博にも「人・物・社会の持続可能な未来」を世界に示すという点から、大きな可能性を感じています。
また、本エントリで後述しますが、開催に関して適正な資本投下が行われれば、万博は有形無形の多大な効果を開催地にもたらすことも理解しています。

しかしながら、今回の大阪万博開催を巡っては様々な思惑や政局、利権が複雑に絡み合っており、現状の計画のままでは開催すら危ぶまれるのではないかと、強く危惧しています。

 

私には、二元代表制を採る地方議会議員としておかしいと思うことはおかしいと言う義務があると考えていますし、万博を主催する政府に対し与党所属議員として修正を促していくことにも意義があると信じています。

 

今後とも、2025年大阪・関西万博が成功裏に開催され、日本が再び浮揚する契機となれるよう微力を尽くして参りたいと存じます。

 

では、本題に入りたいと思います。
なお、本稿は昨年末に行われた堺市議会総務財政委員会での私の質問をベースにしております。
また、以下、特段の記述がない場合、「大阪万博」は「2025年国際博覧会」のことを指すとお考えください。

 

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2018年11月23日、パリで行われたBIE総会で2025年国際博覧会の大阪開催が決定しました。今後は、開催に向けた具体的な計画が練られていくことになりますが、実は開催決定は、招致から開催に至る工程のちょうど「中間地点」を超えた辺りに過ぎません。
参考までに愛知万博大阪万博の開催スケジュールを比較した表を作成したのでご覧ください。

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万博は開催が決定すれば、後は開催国で自由に計画を進めれば良いのではなく、実際の開催計画を改めてBIEに提出し開催登録承認を受けなければなりません。実際に会場の建設などを行うのはそれからで、愛知万博の場合、開催決定から登録承認まで実に3年半の年月かかっています。そしてその間に計画が大きく変更されたことは、前回エントリで詳しく書きました。

 

愛知万博では、組織の立ち上げから登録計画策定までに3年半、基本計画に1年、(恐らく)設計に1年、建設に2年半かかっています。名古屋市近郊の会場ですらこの工期でした。
夢洲(ゆめしま)」という、交通アクセスや生活インフラも整っておらず、埋め立て造成すら終わってない「島」で行われる大阪万博の会場建設は、さらなる難工事が予想されます。しかも愛知万博に比べてすでに約1年遅れのスタートです。当初からかなりタイトなスケジュールになっているのが現実です。

 

次に開催準備にかかる「お金」について、やはり愛知万博をひな形として検証したいと思います。

 

「2005年日本国際博覧会 公式記録」によると、愛知万博では総計2兆8000億円のインフラ投資が行われたとあります。一方、期間中の消費支出は4600億円、経済波及効果は7兆7000億円(将来的な効果や無形の遺産は含まず)に及んだと記されています。
2兆8000億円というのは、ちょうど大阪府の一般会計予算総額に相当します。万博という事業の凄まじいまでの規模が伝わってくる数字です。
BIE登録承認から会場竣工までは約4年間でしたので、粗い試算になりますが、1年間で約7000億円(2兆8000億円/4年)がインフラ整備に投入されたことになります。

 

ちなみに、大阪府の普通建設事業費は約1,900億円、大阪市のそれは約1,000億円(ともに/平成28年度決算)です。もちろん建設事業は地方自治体だけが負担するわけではありませんが、単純に国と府と市で等分したとしても愛知万博クラスのインフラ投資で年間2,333億円をどこかから持ってこなくてはいけない計算です。
私はこれらの数字を並べて見た時、正直めまいがするような不安感に襲われました。

 

しつこいようですが、私は海上で行う大阪万博の会場建設費は、確実に愛知万博よりかさむと考えています。愛知万博ではリニア鉄道やゴンドラが新設されましたが、大阪万博の海底トンネルを通る地下鉄や、橋の拡幅、海の埋め立てなどに比べれば大した工事ではないという印象すら受けます。
今の大阪にそこまでの体力があるでしょうか。緻密で丁寧な予算計画が求められます。

 

では、愛知万博ではこのような巨額のインフラ整備予算をどのように工面したのでしょうか?

 

愛知県のウェブサイトに「あいち 財政の概要」というファイルが公開されています。
万博開催から14年が経っているため、詳細なデータではありませんが、いくつか気になる数字が見て取れます。

 

まず自治体の借金にあたる「県債」ですが、万博の前後で発行額、残高ともに大幅に増加しています。最も古いデータは平成2年(1990年)でこれは誘致活動を開始した頃です。先述の年表の通り、開催決定は平成9年(1997年)で、開催は平成17年(2005年)です。
県債発行額は平成2年の918億円から平成9年には3,225億円と3.5倍に、残高は10,259億円から22,905億円と2.2倍に膨れ上がっています。自治体財政においてここまで急激に借金が膨らむことはあまり考えられませんが、当時それだけの支出が求められたということでしょう。

 

次に自治体の貯金にあたる「基金」について見てみましょう。
資料では平成2年に1,440億円あった取り崩し可能な基金が万博開催前後には111億円と10分の1以下にまで減少しています。建設事業用と考えられる基金は平成2年の時点で約1,200億円ありましたが、恐らくそれらをすべて使い切ったのだと考えられます。
また基金は、災害のような突発的な復旧事業に備える意味合いもありますので、これを使い果たしてしまうと急な出費に対応できなくなってしまいます。

 日々の借金は3.5倍、借金残高は2倍、貯金は10分の1に。
データを見る限り、当時、愛知県の財政はかなり危険な状態だったと私は感じます。

 

一方、大阪府基金の状況がこちらです。
基金の詳しい説明は省きますが、この内、ハード整備に使えそうなのは「公共施設等整備基金」447億と、府の基金ではありませんが松井知事が流用を明言している万博財団管理の「万博記念基金」が190億円くらいです。

財政状況が違うので単純に比較はできませんが、当時の愛知県よりかなり残高が少なく、愛知万博クラスの投資が求められれば、大阪府の財政はさらに苦しいものになるはずです。

 万博によって府民生活に影響が出るようでは本末転倒です。特に府議会には、今後しっかりと行政をチェックすることが求められるでしょう。

 

さて、暗い話ばかりではなく、7兆7000億円とされる経済波及効果について見ていきましょう。

 愛知万博関連の資本投下の恩恵を大きく受けた顕著な例があります。
万博会場となった長久手市です。

 

長久手市名古屋市の北西に位置する人口6万人の自治体です。愛知万博開催時は町(ちょう)でしたが、万博に合わせリニア鉄道が敷かれ、それまで鉄道空白地だった市内に一気に6つの駅が開業し、人口が急増します。会場周辺の道路整備や住宅開発も進み、2012年に市制施行し市になりました。

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「地域人口関連統計図表の収納庫」サイトより引用)

長久手市発展の象徴的なエピソードとして、私が思わず笑って(失礼)しまったくだりが、前回紹介した書籍「虚飾の愛知万博 土建国家『最後の祭典』アンオフィシャルガイド」にあります。

 

長久手町が万博会場に決まり、会場から排出される汚水を町の浄化センターで処理することになりました。排出される汚水の量は一日8,600トンと予想されましたが、町の処理能力は6,000立米(トン)しかありません。仕方なく県と町は、浄化センターの処理能力を18,000立米/日まで拡張したそうです。供用開始は万博開幕の3週間前だったということです。

 

道路、リニア、生活インフラ、跡地公園、ニュータウンなど、これらの万博レガシーは、結果としてその後の人口増を支えることとなり、長久手市名古屋市豊田市などのベッドタウンとして、その後の県全体の発展に大きく寄与しました。
やや好意的すぎる見方かもしれませんが、間接的には日本の自動車産業を支えたわけで、その後の日本経済の成長にもつながったと言えますし、愛知万博の「環境」というテーマが、世界最高の環境性能を持つ自動車の開発などにもつながっていったのかもしれません。(愛知万博協会の会長は豊田章一郎氏でした。)
私は万博への投資はこのように機能させるべきであると感じます。

 

今の大阪万博のコンセプトには、テーマ、会場、跡地を含めたレガシーの活用、未来への影響等において、それぞれの整合性や俯瞰的かつ長期的な視点が欠けています。
数兆円規模の投資が適切かつ有効に行われれば、その効果は(過去の万博がそうであったように)大げさではなく日本の将来を左右するほどの影響力を持ちます。
前述の通り、愛知万博では開催決定後の基本計画策定で内容がブラッシュアップされ、厳しい前評判を覆して成功を収めました。

 

今後は、大阪万博においても、政府が主導する形で登録基本計画が練られることになりますが、投資の効果が最大化されるような内容となるよう、まさしく日本の官民の叡智を結集して取り組む必要があります。

 

そのことを引き続き、開催地である大阪からしっかりと発信し、伝えてまいりたいと思います。

謹賀新年 平成31年年頭にあたって

年頭にあたり、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
平素は私の活動の各般に渡り何かとご協力を賜わり感謝申し上げます。

本年は4月に天皇陛下のご譲位があり、5月には新元号のもと日本は新たな時代を迎えます。新しい年が皆様方にとって良き年となりますことを心よりご祈念申し上げます。

さて本年は大阪においても、新時代の幕開けを象徴するかのように多くの社会的な催事、行事が予定されています。
主な出来事を時系列でまとめますと、4月には統一地方選挙、6月にはG20首脳会議、7月には参議院議員選挙、百舌鳥古市古墳群世界文化遺産登録の結果発表、9月にラグビーW杯、11、12月には大阪府知事大阪市長の任期満了と選挙が行われる予定となっております。堺市民の皆様にとりましても、大きな出来事が続く目まぐるしい一年となることでしょう。

振り返りますと、昨年は大阪においても北部地震、夏の猛暑、台風21号などの災害が続発しました。堺市においては、これらの災害復旧や対策に緊急の補正予算を組み対応して参ったところです。基礎自治体の役割は市民生活を守ることでありますが、そのためには政治的な安定が不可欠であると改めて実感させられた次第です。
本年、大きく動くと予想される政治の結果が、市民・府民の安心につながるものであることを願います。

また私といたしましては、本年、皆様にお支えをいただき務めて参りました2期8年の堺市議会議員の任期が区切りを迎えます。
今後ともしっかりと職責を果たして参る所存ですので、どうか変わらぬご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

堺市議会議員 野村ともあき 拝

「大阪出直しダブル選挙」に意義はあるか

統一地方選挙が約3ヶ月後に迫る中、大阪の政局が大きく動いている。
毎日新聞は12月24日の朝刊トップで、松井一郎大阪府知事、吉村洋文大阪市長が、統一地方選挙と同日(平成31年4月7日)に知事・市長選を行うことを念頭に、辞職する意向があることを伝えた。

松井知事は出直しダブル選挙を行う理由として、大阪市を廃止し特別区を設置する「いわゆる大阪都構想」の是非を問う住民投票の実施に関し公明党との調整がつかなかったことを挙げ、26日に行われた会見の中で、住民投票実施に関する公明党との「合意書」なる文書を公開した。

松井知事は会見の中で、「公明党には何度も煮え湯を飲まされてきた」と述べ、そのため「出すことはないと思っていた」文書を一方的に暴露するに至ったと言う。

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公開された「合意書」には、「平成29年5月議会で法定協議会を設置する議案を可決すること」と、「議論を尽くすことを前提に、今任期中で住民投票を実施すること」の2点について、両者が合意したことが示されている。

 

「いわゆる大阪都構想」は、国内を代表する大都市である大阪市を廃止・分割するという前例のない制度の改変で、大阪市民はもちろん、日本全体にとっても極めて大きな影響力を及ぼすものである。その制度設計には慎重かつ緻密な議論が必要であり、「合意書」にあるようにスケジュールありきで進めるような政策ではない。

 

また維新・公明両者の間では、住民投票実施の期限を巡って、文書中の「今任期」という文言が「知事・市長任期(19年11月まで)」を指すのか、「議員任期(19年4月まで)」を指すのかで、水掛け論のような議論が展開されている。確かに合意書の文面はどの任期を指すのかが明確ではないが、双方の主張が平行線をたどるのは、そもそも「合意書」が「証文」として機能していないからである。

 

このような杜撰極まりない取り決めに端を発する政党間の揉め事(しかもそれは大阪府政と直接何の関係もない)を理由に、数十億円の税金を費やして出直し選挙を行うなど到底許されることではないし、両党は府民市民から政治の責任を問われてもおかしくないだろう。

 

今回の騒動を見ていると、維新の会の前代表であった橋下徹氏が多用した「自らの意見が通らないから不意打ち選挙に訴える」「キャスティングボードを握る公明党を秘密の暴露や恫喝で屈服させる」手法が思い出される。

実は大阪の政界周辺では、以前から知事の辞職と不意打ち選挙の噂が耐えなかった。橋下氏の後継者である松井知事には、旧来からの手法で煮え切らない公明党に揺さぶりをかけて住民投票実施の同意を取り付ける狙いがあったのだろうが、毎日新聞がすっぱ抜き報道各社が追従したことによって、出直し選挙が避けられない状況に追い込まれつつある。

二つの首長選挙に勝ち、同時に府市両議会で過半数を握るのは簡単なことではない。

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自治体の首長は任期途中で辞職し同じ職に当選しても任期は変わらない。つまり知事・市長がともに変わらなければ、11月に再びダブル選挙を行うこととなってしまうため、現在の情勢では、知事と市長の入れ替えか、松井氏の参院選への鞍替え出馬の可能性が高いとされている。
両首長は年初早々の予算編成の目処がついた時点で意向を表明するというが、有権者の理解が得られるだろうか。

 

来年度は新天皇陛下の即位に伴う改元や、G20首脳会談、ラグビーワールドカップ、万博開催準備の本格化など、大阪の政治、行政の関係者は多忙を極めることになろう。

都構想より他にやるべきことは山積している。


この10年近く、政局に振り回され本来なすべき政策や業務がなおざりにされてきたことが、大阪の長期的な低迷を招いたのは間違いない。

 

一刻も早く、このような現状が打開されるよう、取り組みを進めていかなければならない。

その3 2025年大阪万博 開催に向けての課題 ~2005年 愛・地球博を振り返る(開催準備編)

先にアップしたエントリ「大阪万博 開催への課題」その1その2は、おかげさまで多くのアクセスをいただきました。皆さんの関心の高さに驚くとともに、やはり万博開催については冷静にしっかりと考えることが重要であると改めて感じた次第です。

 

先般策定された大阪万博(2025)の基本構想は、2005年の愛知万博愛・地球博)を参考に立案されたものであることは前述しました。そこで「大阪万博開催に向けての課題」を考える際には、愛知万博開催当時の状況を知っておくことは重要だろうと考え、当時の記録などを調べてみました。すると、「2005年日本国際博覧会 公式記録」と「虚飾の愛知万博 土建国家『最後の祭典』アンオフィシャルガイド」という2冊の書籍に行き当たりました。

 

「公式記録」はその名の通り、愛知万博の事業主体である「財団法人2005年日本国際博覧会協会」が発行した公式の記録です。
後者の「虚飾の~」は、愛知万博を開催前から10年以上に渡って取材してきたジャーナリストの前田栄作氏による著作で、タイトルからわかる通り愛知万博を徹底的に批判した内容となっています。

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2冊は、いわば大本営発表と批判書という位置づけです。また「公式記録」は開催後に、「虚飾の~」は開催直前に著されたという違いもあります。
対極にある2冊ですが、結論から申し上げて、私は「2025年大阪万博に関わる者は全員この2冊を読むべきである」と強く感じました。

 

私は愛知万博には行ってないので、実際の万博の様子も知りませんし、関連する当時のニュースなども特に記憶に残っていません。実は、成功したのか失敗したのかすらちゃんとわかっていませんでした。
しかし、開催前から総括までを賛否両面から克明に記した両書を読み、愛知万博がどのような経過を歩み、どのような結果に至ったのかを知ることができました。そしてそれは、これから大阪万博の成功に向けて総力を尽くさなければならない我々にとって、非常に多くの示唆を与えてくれるものでした。

 

私は時系列に沿って「虚飾の~」から読み始めました。
本書は愛知万博開催前に書かれたので、当然、万博開催中の写真が一切ありません。本書には、開催に至る無理な計画や相次ぐトラブル、開催地を巡る土地疑惑、推進派と反対派のせめぎあいなどが、ほとんど文章だけで淡々と綴られています。筆致は全編を通して重苦しく、万博開催の華やかさや歓喜のような表現は一切ありません。それがかえって想像力を刺激し、演出を極力排除したドキュメンタリー映像のようなリアルさを覚えました。
あとがきにおいて、筆者は「愛知万博は間違いなく赤字となり、愛知県は破綻する」と警鐘を鳴らし、暗澹たる空気感の中で本書は終了します。

 

続いて、実際の開催結果はどうであったか知るために「公式記録」を紐解きました。本書はA4判の大型本で、550ページに渡って「2005年日本国際博覧会」の基本構想から誘致、準備、開催、結果に至るまでの経過が詳細に記録されています。

 

私は本書を開いてまず目に飛び込んでくる、巻頭の万博会場の華々しいカラー写真を見たとき、先に読んだ「虚飾の愛知万博」の寂寥感に満ちた空気から180度異なるその明るい雰囲気に、準備期間中の押しつぶされるような重圧に耐え開催にこぎつけたであろう関係各位の感情に自然と移入させられ、ある種の高揚感のようなものを感じさせられました。
それは様々な苦難を乗り越え開催に至った17年に及ぶ国家プロジェクトを追体験するような不思議な感覚でした。

 

結果を先に言うと、愛知万博は「成功」しました。来場者数22,049,544人、事業収支は129億円の黒字。BIEのロセルタレス事務局長は愛知万博を「類稀なる偉業」と称えています。
しかし、公式記録の冒頭に「閉幕時に新聞各紙は~開催前には考えられなかった極めて好意的な評価を下した」と書かせるほど、開催前の評価は厳しかったようです。それを覆し、万博を成功に導いた裏には、関係者の血の滲むような努力があったことは想像に難くありません。

 

私は大阪万博の成功を願っています。いや、成功させなければなりません。
しかし、現時点において大阪万博が置かれている状況は、同時期の愛知万博よりはるかに厳しいものです。
2025年の大阪万博を成功させるために、私は、関係者全員がその構想の端緒となった愛知万博を丁寧に分析し、その手法を学び、これから何度も直面するであろう困難な局面を打開する際に意識の方向性を共有しておくことが、極めて重要であることを確信しています。

 

そして、本稿がその一助となることを切に願います。

 

それでは両書籍を元に、愛知万博の歴史を見ていくことにしましょう。

 

愛知万博は正式名称を「2005年日本国際博覧会」といい、略称が「愛知万博」、愛称が「愛・地球博」です。

愛知万博は1988年10月に当時の愛知県知事 鈴木礼治氏が誘致構想を提案し、90年2月に名古屋市の東20kmに位置する2000haの森林「海上の森(かいしょのもり)」を会場候補地として選定しました。

 

前出の「虚飾の~」によると、実は愛知県は1988年のオリンピックの名古屋市開催を提案しており、誘致を争った結果、81年の選考でソウル市に敗れています。
その会場候補地もやはり名古屋市東部の丘陵地帯で、周辺の土地を巡っては大規模開発事業が浮かんでは消え、鈴木知事、前々知事、前知事とその支援者らが複雑に関係した土地疑惑の末に、副知事が逮捕、前知事が自殺するという前代未聞の事件にまで発展したとのことです。

 

一方、その後に浮上した万博開催構想も、発案当初から県の「新住事業」とセットにされていました。
新住事業とは新住宅市街地開発法に基づくいわゆるニュータウン開発のことで、高度成長期には全国の大都市郊外で多くのニュータウンが建設されました。
愛知万博には、新住事業によって大規模開発を行い開催後の跡地は宅地とするプランが当初から組み込まれていたのです。ニュータウン開発と万博、どちらが先にあったのかは憶測の域を出ませんが、時はバブルの真っ只中。オリンピックと万博を通して、土地開発に血道をあげた県の遮二無二な姿勢が伺えます。

 

もちろん愛知県や大阪府に何らかの疑惑があるとは言いませんが、オリンピック誘致に失敗した土地で万博を開催するという構図は全く同じであり、関心を惹かれる事実です。

 

「虚飾の~」に当時の鈴木知事の言葉が書かれています。
「万博に1兆5000億の投資を行えば、8兆6000億の経済波及効果が得られる」。

 

構想がスタートしてから地元で誘致活動を担ったのは、愛知県内の産官学の関係者らで作る「21世紀万国博覧会誘致準備委員会」でした。本委員会が94年6月に基本構想を策定、95年末に政府の閣議で了承され、日本として正式に万博を誘致していくことになります。翌96年、BIEに2005年の開催希望を通告。そして97年6月、選考の結果、カナダのカルガリーを破って日本開催が決定します。
誘致構想の発議から実に9年後のことでした。

 

ちなみに、この時の誘致合戦では、事前に立候補を表明していたオーストラリアが経済的な理由から辞退、カナダとの一騎打ちになった結果、未加盟国にBIE加盟を促す多数派工作が激しさを増し、投票権を持つ加盟国が半年で47か国から82か国に増えたといいます。
この辺りも今回の誘致活動に酷似した流れで、日本が開催を勝ち得たのも外務省を中心に政府に誘致ノウハウの蓄積があったからかもしれません。


さて、現在の大阪万博は開催が決定したこの時点に置かれています。ここから具体的な開催のための準備に入っていくわけですが、愛知万博においてそれらはどのような経緯をたどったのでしょうか。

 

政府はまず通商産業大臣を万博担当大臣として指定し、事業主体となる「万博協会」に政府が様々な支援を行うための「特措法」が制定されます。同時に、開催地では愛知県と名古屋市をはじめとする県内の7市町と財界が中心となり、97年10月22日に「財団法人2005年日本国際博覧会協会」(万博協会)が設立されました。当初の基本財産(資本金)は3000万円、各界からの出向者30名の職員でのスタートだったそうです。
これ以降の開催へ向けた準備は万博協会が担うこととなりました。

 

協会は組織づくりや開催基本計画の素案づくりを進め、約1年後の99年1月22日に「会場基本計画案」を発表します。当初の基本構想と同じく「海上の森」を会場とする内容でした。

しかし、豊かな自然の森を万博会場として開発する計画は、基本構想の段階から日本自然保護協会や世界自然保護基金WWF)などの環境団体から強い反対を受けていました。反対派と政府・県との間でせめぎあいが続く中、同年5月12日、環境庁レッドデータブック(絶滅の恐れがある動植物のリスト)に掲載されているオオタカの営巣が会場予定地で確認されます。

 

これをきっかけに環境庁が計画に難色を示すなど、「海上の森」会場計画案は大きくゆらぎ始め、同年7月の企画調整会議では「愛知青少年公園」を会場とする案が提示されるに至りました。「公式記録」には、海上の森から愛知青少年公園へとメイン会場が移っていく会場図の変遷が大きく掲載されています。

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11月15日、会場の視察と登録申請にかかる実務協議のためBIE幹部が来日します。そこで行われた通産省との会談の内容をすっぱ抜いた中日新聞の記事が関係者に衝撃を与えました。「万博の跡地は住宅地にするということだが、これは万博を笠に着た、環境を破壊して行う開発行為ではないか」。BIE幹部は政府に対しこう詰め寄ったと言います。

 

この報道を受けて開催計画は大きく見直されることになりました。
政府は5月に予定されていたBIE登録申請(開催申請)を延期することを決定。4月4日、政府、愛知県、万博協会の間で、会場配置の大幅な変更と新住計画の中止を含む「基本的方向性」の合意がなされます。

 

またこの間には、市民による「万博開催の是非を問う住民投票条例の制定を求める署名活動」が展開され、必要法定数の3倍に当たる32万人もの署名が集まるなど、混乱が続きました。(条例案は県議会で否決)

 

期限が刻一刻と迫る中、ほとんど一からの練り直しと言って良い開催計画の変更作業が急ピッチで進められました。
約半年後の同年12月、日本政府はBIEに対し登録申請を行い、無事承認されます。

開催決定から3年と半年後のことでした。

 

新たなテーマとされたのは「自然の叡智」。環境問題への批判を受けての変更でした。また開催期間、会場エリア、資金計画、跡地利用などはこの時点で正式に決定したものです。

 

さて、ことの真偽は定かではありませんが、「虚飾の~」には、通産省が「海上の森」での開催を強行しようとする愛知県に方針転換させるために、中日新聞に記事をスクープさせたと記されています。

 

会場計画にかなりの無理があることは大阪万博も同様ですし、万博の開催とカジノの誘致が表裏一体であることを、大阪府知事大阪市長をはじめ維新の会は公言してはばかりません。

今後、万博会場跡地をどうするのかという計画はBIEで必ず議論になります。
万博跡地を「隣接する『カジノを含む統合型リゾート施設』の拡張用地に使う」では、到底、国際社会の理解は得られないことを肝に銘じなければなりません。

 

愛知万博の例を見るまでもなく、今後詳細を詰めていく中で経済産業省や外務省は大阪府の計画にある多くの課題に直面することになるでしょう。

時系列で比較すると、愛知万博の最終計画が確定し、BIEに登録されたのが開催の4年4ヶ月前のことでした。2025大阪万博の開催4年4ヶ月前は2021年の1月となります。

それまでの約2年間、我々は万博開催に向けた事業計画を、世界に誇りうる内容とするため、全力で取り組まなくてはなりません。

 
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さて、例によって乱筆乱文のため、大変な長文になってしまいました。
ここから愛知万博の「実際の開催に向けた取り組み」を紹介したいのですが、これまた「開催準備編」以上に大変な内容なので、とりあえず一旦キーボードを閉じ、稿を改めたいと思います。

その2 2025年大阪万博 開催に向けての課題

前回に続き「大阪万博開催に関する課題」について書きます。

前回は主に「建設費」について書きましたが、今回は「運営費」について検証してみたいと思います。
現在のスキームでは、「運営費は入場料等の自己財源で賄う」とされています。つまり税金等の支出は行わず、入場料収入等を運営費に充てるという意味です。

 

前回も書きましたが、大阪万博の「目標来場者数」は3000万人とされていますが、注意しないといけないのはこれは「目標」数値であって「予測」ではないという点です。「予測」に関しては、経済産業省が過去の博覧会の実績から来場需要予測を算出しており、そちらは2820万人とやや少なく見積もられています。が、概ね3000万人レベルの来場者を想定して様々な計画の詳細が練られています。

 

来場者数はすべての計画立案の基礎となっており「運営費」の収支にも直結するものですから、正確な計算が求められます。万が一赤字になるようなことがあれば、その穴を埋めるのは恐らく税金ということになりますから、今後、様々な条件が固まれば、その都度、改めて予測の見直しを行うべきでしょう。

 

この3000万人という数字が最初に掲げられたのは、大阪府の取りまとめた「万博基本構想案」です。この案はわずか4か月の突貫工事で作成されたことは前述しましたが、入念な調査や精緻な設計などを行う時間などあるはずもなく、直近かつ同規模の登録博であった2005年の「愛・地球博愛知万博)」の実績をベースに機械的に様々なデータが割り出されたことが伺えます。

 

例えば、愛・地球博の来場者は2205万人で、事業運営費は最終的に632億円となり129億円の「黒字」でした。収支がトントンとなる採算分岐点は632億円から129億円を引いた503億円で、これを来場者数2205万人で割ると1万人あたりの収入は約0.23億円(2300万円)となり、事業運営費の下限である690億円を0.23億円で割るとぴったり3000万人となります。
690億円という事業運営費が先にあったのか、3000万人という動員目標が先にあったのかはわかりませんが、とにかく愛・地球博を大いに参考にしているのは間違いありません。

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大阪府版基本構想」が国に上程された後、経済産業省が入場者規模を想定していますが、そこにも「会場建設面積を82haと想定すると、3000万人の来場で愛知万博レベルの混雑度とサービスレベルを維持できる」とされており、2025大阪万博愛知万博の「規模感」を目指すことが明言されています。

 

私がしっくりこないのは、具体的な展示の魅力とか万博に対する需要などから3000万人の来場者が見込まれているわけではなく、まず3000万人ありきで計画が積み上げられて行っていることです。決まっているのは「健康・長寿」というテーマだけ。いうなれば「何を作るかは決まっていないけどとにかく3000万人に売れる健康器具を作ろう」とか言って、いきなり設備投資や人材の手配を始めているようなものです。

 

今までは招致できるかわからなかったので、勢いで数字を打ち上げるのも良かったかもしれませんが、これを機会にしっかりと企画から練り直しをし、確固とした論拠に基づいた需要予測を行い、場合によっては規模の見直しも視野に入れて、計画を策定し直すべきでしょう。

 

ここで、この3000万人という目標はどのくらいの動員水準に相当するのか見てみましょう。

 

万博会場の海を挟んだ大阪市側には、国内有数のテーマパークである「ユニバーサル・スタジオ・ジャパンUSJ)」があります。同パークはインバウンド効果や運営会社の企業努力もあって、近年大変な人気を博していますが、このUSJの「年間」来場者が約1500万人です。
万博の開催期間は180日(6か月)ですので、USJと比較すると半年750万人の実績に対し3000万人の目標ということで、実にUSJの4倍の集客をしなければいけない計算です。
率直に申し上げて極めて高いハードルであると感じます。

 

また、これまで日本国内で開催された万国博覧会の動員実績は、'70大阪万博が6422万人、沖縄国際海洋博覧会('75本土復帰記念事業)が349万人、国際科学技術博覧会('85つくば万博)が2033万人、国際花と緑の博覧会('90花博)が2312万人、先ほど挙げた'05愛知万博愛・地球博)が2205万人となっています。(余談ですが1970年の大阪万博が別格だったというのがよくわかりますね)

 

以上のことから考察すると、2025大阪万博の「来場者数3000万人」という数字は、絶対不可能とは言いませんが、’70大阪万博以外のすべての万博の実績を上回らなければならないレベルであり、生半可な取り組みでは達成できない目標であることがわかります。

 

さて、この膨大な来場者数である3000万人が現実的かどうか検証するために、受け入れ体制がどうなっているか見てみましょう。

 

前エントリで書いたように、会場の夢洲には二本の自動車アクセスルートと、これから建設する予定の地下鉄中央線の延伸経路しかありません。
カギとなるのはやはり大量輸送が可能な地下鉄で、万博成功のためには建設は避けて通れない状況です。

 

大阪市高速電気軌道Osaka Metro)中央線の万博に合わせた延伸計画は、2024年までに咲洲にある現在の終点「コスモスクエア駅」と夢洲を結ぶものです。
現在、中央線は1日に20万人ほどの利用があり、コスモスクエア駅からはピーク時には1時間に9~15本の発着があります。運行する車両は6両編成で1便最大1380名を輸送できるとのことです。
しかし、3000万人の来場者を単純に半年(180日)で割ると、一日あたりの来場者数は16.6万人となり、ピーク時や休日に来場者が偏ることを考慮すると、地下鉄だけで来場者を捌くのは輸送量の面でもルートの面からも不可能です。
結果、鉄道以外の輸送手段を確保することは不可避の状況ですが、経済産業省の試算では「地下鉄を運行間隔3分、乗車率199%で運行」させた場合でも、その他の来場者を輸送するシャトルバスの必要台数が大阪バス協登録台数の半分以上を占めることとなり「課題がある」と指摘されています。
改善案として示されているのはヘリコプターの利用や自動走行システムによる渋滞緩和策とのことですが、それらに実効性(実行性)があるのかしっかりとした検証が必要です。
確実で快適かつ安全な輸送手段の確立は、イベント開催の上で最も重要な課題のひとつですが、この点について事前の検証で解決策が提示されているとは言えず、前途は多難です。

 

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以上、努めて客観的に、数字をベースとした万博の来場者と運営コストについて私の考えを示しましたが、皆さんはどうお感じでしょうか。

 

大事なことなので繰り返しお断りしておきますが、私は万博そのものには反対ではありません。しかし、実現不可能な計画は早い段階で見直すべきだと主張しているのです。
万博は机上の企画から、現実の作業にステージが移りました。今一度、冷静になって企画や計画を一から見直すべきです。

 

万博開催の原資の大部分は税金です。しかもそれを支出する大阪府・市の財政状況は、オリンピックを開催する東京都とは比べ物にならないくらい逼迫しています。数千億円の無駄な支出を吸収できる体力は大阪にはありません。

 

次回は「経済効果とレガシー(仮)」について書こうと思います。

2025年大阪万博 開催に向けての課題 その1

2025年に開かれる国際博覧会(万博)の開催地が大阪に決定しました。国内で開催される大規模万博としては、1970年の大阪万博、2005年の愛知万博以来、20年ぶり3度目の開催となります。
今回の決定は、日本政府が国を挙げて招致に取り組み、開催地である大阪府・市を全面的にバックアップした成果(※1)であり、開催を勝ち得たのはひとまず喜ばしいことであると思います。

 

しかし、これから実際に開催のための事業を進めるにあたっては、「いばらの道」と言って良いほどの険しい道のりといくつものハードルが待ち受けています。行政をチェックする立場である議員としては、その責任の重さに正直、期待よりも不安や心配のほうが先に立ってしまいます。

もちろん、開催が決定した以上、我々は国の威信をかけて全力で万博の成功を支えなければなりません。開催地・大阪においては、空虚な政局論争はいったん留め置き、政治、行政、経済界が大阪の未来のために一丸となって取り組まなければ、この歴史に残る大事業は成し得ないでしょう。

 

私は、関西広域連合が万博招致を支持した際に、関連自治体として招致に関する課題を議会常任委員会で取り上げ、また所属する自民党大阪府政務調査会としても、国に対する要望のとりまとめに関わってきました。
ここではそれらの内容を改めて整理し、本事業に関わるすべての方々と課題認識を共有しておきたいと思います。

 

かなり厳しい内容とはなりますが、私は万博の開催に反対しているわけでも、祝賀ムードに水を差したいわけでもありません。二元代表制を採る地方自治体の議会議員という立場から、疑問に感じるところは疑問として受け止め、それをどう解消していくのか考えるための問題提議として本稿を著す次第です。

 

万博招致活動は、平成28年大阪府が「2025日本万国博覧会 基本構想案」の策定に着手したところからスタートします。私がこの構想案を最初に読んだときの印象は、ずさんとまでは言いませんが、精緻な調査に基づいたものではなく、かなり粗雑な内容だな、というものでした。というのも、大阪府において第1回の万博検討会議が開催されたのは平成28年6月30日のことであり、それから10月28日の会議で構想案がまとめられるまで、わずか4ヶ月の間に4回の会議しか開かれていません。明らかにしっかりとした調査研究などをする時間がなかったのです。万博は当初計画の事業費だけで2000億円を超える大事業ですが、その基本計画がわずか4ヶ月で策定されたことに、私は違和感を禁じ得ませんでした。この内容については大阪府議会、大阪市会でも質疑がなされていますが、各項目の詳細については「これから協議する」という答弁に終始することが多かったようです。

 

それでは計画の内容を見ていきます。

 

■会場用地と建設費用について

万博の舞台となる「夢洲(ゆめしま)」は大阪市の最西端、大阪湾上に位置する390haの人工島です。かつて2008年のオリンピック会場として招致運動が展開されましたが北京市に敗れ、現在は一部がコンテナヤード、メガソーラー、廃棄物処分場として共用されているほかは、大部分が未整備の更地です。また埋め立ても完了しておらず、現在も産廃や浚渫土の受け入れ先となっています。
後述しますが、地理的にアクセスには二箇所以上の橋(トンネル)を経由しなければならず、メインの経路は「此花大橋(このはなおおはし)」と「夢舞大橋(ゆめまいおおはし)」を通るルートか、南ルートである「夢咲トンネル」を通るルートしかありません。

 

390haのうち万博用地は南部の約100haとされていますが、IR(カジノを含む統合型リゾート)の(未決定の)誘致のために北部の70haが確保されており、万博開催のためには30haほど広さが足りません。現在の予定では、前述の未造成の埋立部分を急速施工で造成するとなっています。万博のために、廃棄物の受け入れ先となっている湾を埋め立てるということです。
私が港湾建設に詳しい議員さんに聞いたところでは、わずか2、3年で大型建築物を建てられるだけの地盤の造成ができるとは思えないとの話でした。
さらに埋め立てには漁業への補償や環境アセスメントなども必要となることが予想されます。
ちなみに埋立費用は50億円ほどと試算されています。

 

次に建設予算についてです。
先ほど事業費を2000億円と書きましたが、内訳は会場建設費として1200億~1300億円、開催運営費として690億円~740億円となっています。
会場建設費は文字通りパビリオンや周辺設備などの建設費用ですが、ここには先ほどの造成のための費用やインフラ、夢洲以外の整備費用などは含まれていません。

そのうち最も巨額の費用は、3000万人と設定されている来場者のための交通アクセス増強のための整備で、地下鉄中央線の延伸に540億円~640億円、此花・夢舞大橋の道路改良等に40億円がかかるとの試算がなされています。

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地下鉄中央線というのは夢洲の南東にある咲洲(さきしま)と大阪市内を結ぶ路線で、2008年大阪オリンピック招致時にも延伸が計画されましたが大阪が落選したことで事業が休止しました。前述した夢咲トンネルはそのためのものとしてすでに開通しており、現在は自動車のみが通行できるようになっています。夢咲トンネルの残事業は約1kmの躯体工事と線路、駅舎の設置となっています。

 

また夢洲地域は水道、電気、ガス、通信などの生活インフラも極めて貧弱で最低限のものしか備わっていません。特に大阪市の下水道処理区域に含まれていないため、万博開催時には何らかの下水処理施設の建設が必要となります。
廃棄物に関しては隣の舞洲(まいしま)に大阪市のゴミ処理場があるのでここで処理することになるでしょう。
これらの基盤整備費用については、私の手元にある試算によると280億円となっていますが、粗いものですので今後精査する必要があるでしょう。

 

その他、3000万人に対応する宿泊施設の整備や、既存の物流産業への影響を最小限に抑えることも必要です。特に物流産業への影響は目に見えないコストとなる恐れがあり注意が必要です。というのも、先述のように夢洲には二本のアクセス経路しかありません。ここに期間中3000万人の来場者が殺到し大渋滞が生じた場合、物流機能に障害が生じ、大阪経済に重大な影響を与える可能性があります。

 

同様の視点から、埋立地という立地から災害に対する備えは極めて難しいものになることが容易に予想できます。地震だけでなく、先の平成30年台風21号において、湾岸エリアは特に大きな被害に見舞われました。近年中の発生が予想される東南海・南海地震はもとより、津波や台風、大規模火災などに対しても万全の備えが求められます。これらの対策費用に天井はありません。開催までの期間に「どこまでやれるか」の戦いになるでしょう。

 

以上の費用を考えると、私は当初の建設費だけでも3000億円は見込んでおかなければならないのではないかと感じます。
さらに東京オリンピックの例を挙げるまでもなく、このようなイベント事業は後からいくらでも必要なヒト・モノが出てくるのが常ですので、それらをいかに抑制するかも重要となるでしょう。

 

そもそも費用以前に、海を埋め立てて、海底トンネルに鉄道を敷き、生活インフラを整備し、道路を造り、それからパビリオンなど会場施設の建設するということがわずか6年で可能なのかという疑問もあります。「時間を金で買う」ではありませんが、事業を迅速に進めるためにはさらにお金をかけるしかありません。現実問題として、今後の予算の膨張についてもある程度の備えは絶対に必要となります。

 

■建設費用の負担割合について

さて、この現状1200億円の会場建設費ですが、国・地元自治体・民間等が400億ずつ三等分する計画となっています。国と自治体はやると決めたのですから必ず支出することになりますが、民間に400億円をご負担いただけるかは未知数です。愛知万博では585億円の寄付や現物提供があったそうなので一つの参考にはなりますが、首相以下、関係各位の並々ならぬ努力が求められるでしょう。

 

ところで民間より揉めるかもしれないのが大阪府・市の関係です。大阪府の松井知事は地元負担分の400億円を府・市で折半して200億円ずつと府議会で(大阪市に断りもなく)答弁したそうですが、これはパビリオンなどの会場建設費に限ったことです。本稿でこれまで挙げてきた道路や地下鉄やごみ処理やインフラや宿泊客の受入や防災などの整備とその事務などの費用、人件費などはほとんどが基礎自治体である大阪市の負担となることが予想されます。そもそも万博を開催しようと言い出したのは大阪府ですが、その負担割合に均衡が取れていなければ大阪市民は納得しないでしょう。

 

現在、松井知事、吉村市長を頭にする大阪維新の会は二重行政の解消を掲げて「いわゆる大阪都構想」を進めているわけですが、万博の開催事業は大阪府知事が決めたことを大阪市長が無条件に了承するというブレーキのない状態で話が進んでいます。大阪市長自治を放棄し大阪府知事を阿諛追従するようでは大阪市民は浮かばれません。

 

さらに言うと「いわゆる大阪都構想」は万博開催にとっても致命的です。大阪市が廃止され特別区が設置されると、先に挙げた万博関連の事務事業の所管と組織は全く新しいものとなり、移行にはどう考えても数年の期間が必要です。また移行のための費用にも別途数百億円がかかるとされています。
ただでさえ行政に凄まじい負荷のかかる「政令市の廃止・分割と府への権限・財源の移譲」などという前例のない大事業を、このタイミングで行おうとするのは、本当に大阪府・市という自治体が消し飛んでしまうのではないかと、心の底から憂慮します。
松井・吉村両首長と大阪維新の会には、万博を成功させたいのであれば、ただちに「いわゆる大阪都構想」の議論を休止することをご提言申し上げます。

 

あまりにも長文になりそうなので、一度ここで稿を改めます。続きは近日中にアップします。

次回は「目標入場者計画」などについて書きたいと思います。

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(※1「都市」として立候補するオリンピックと異なり、国際博覧会は「政府」が「国」として立候補します。すなわちこれは「国家事業」であり、招致を主導的に担ってきたのは「日本国」とその政府です。「誰が招致を実現したのか」という浅薄な議論がなされていますが、下記の図の通り開催に支出した費用を比較すれば明らかです。(参考:毎日新聞11月20日記事 

万博:誘致費36億円 大阪府知事「必要経費」理解求める - 毎日新聞

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