大阪都構想・12の問題点
私はこの度の堺市長選挙において、改めて所謂「大阪都構想」について反対であるという立場を示させていただいております。
なぜ候補者である私も含めて、政治家や有識者の多くが、巨大な大阪維新の会に反抗してまで、大阪都構想に反対するのかということについて、どういった問題点があると考えているかをお伝えさせていただきます。
■地方分権に逆行する制度である。
「大阪都構想」というのは要するに政令市を無くして広域一元化という(地方自治法上)意味不明の理由を根拠に市町村の権限と財源の一部を府へ仕事を移すものです。しかし国の大きな方針は地方分権の推進であって、国や道府県から政令市へ仕事を任せていくというものです。政令市ができた昭和30年以降、政令指定都市への全国の政令市ではそのために色々と連携して話合いや研究を行っていますし、国もその前提で政策を考えます。
つまり、大阪だけが変な方向に進むことになり、全国の政令市と歩調を合わせられないばかりか、国の制度、施策から取り残されることになります。
■東京都制を真似しても大阪は東京にはなりません。
東京が経済的に発展しているのは「都と特別区」という枠組みのせいではありません。首都として国が集中的なインフラ投資を進めてきたことや、経済拠点や行政機能が一極集中しているからです。
「都制(都区制度)」にすれば景気が良くなるという主張を本気でおっしゃる政治家がおられれば、それは不勉強極まりないと言わざるを得ません。分かっていて論理のすり替えをしているなら悪質です。
加えて、都区制度自体が不完全な制度であり、政令市を返上してまで選択するものではありません。これまでの東京都の23区が行ってきた自治権拡充運動の歴史を見ればわかることです。
※ 公益社団法人 特別区協議会 が発行している基本テキストをご覧ください。
https://www.tokyo-23city.or.jp/tokei/shodana/text.html
■民意を無視する2度目の住民投票に向けた動き。
2015年5月17日に住民投票が行われすでに決着がついている大阪都構想。しかし、その後に行われた知事・市長選挙において、特に市長候補は選挙公報に一言も都構想という言葉も明記することなく、選挙の争点から(今回の堺市長選挙のように)外し勝利をしたにもかかわらず、選挙の直後に、民意を得たと言って都構想再チャレンジを訴えてきました。
そもそも、ラストチャンスと言って行われた2015年の住民投票。直接民主主義で主権者たる有権者が直接政策判断を行った結果であります。主権者が示した判断に従うのが政治の責任です。
しかし、その後、再び大都市法に基づいて、都構想の法定協議会を設置し、主権者の判断に従わず、自分たちの都合で勝つまでジャンケンを行ってきました。
そして、当初、平成30年秋には住民投票を行うと言いながら、世論調査の結果が芳しくないことから、のらりくらりと過ごしながら、昨年11月に2025年大阪・関西万国博覧会の開催が決まった途端に、万博招致は維新の手柄とデマを吹聴し、世論の空気ができたところで、今度は公明党に脅しをかけるなどしながら、法定協議会を頻繁に開催し、政局を作り上げ、ついには、知事・市長の入れ替えダブル選挙を本年の統一地方選挙にぶつけてきました。
2015年の民意を無視し、本年の統一地方選挙で脱法的な知事・市長の入れ替えダブル選挙を仕掛け、民主主義や地方自治をも踏みにじりながら、ついには来年の秋には住2度目の住民投票を行うことが濃厚になってきました。
地方自治の危機、民主主義の危機が、この大阪から始まろうとしています。
■財政効果がほとんどなかった。
大阪市で2015年に行われた住民投票前、維新が当初言っていた4000億円という財政効果は、都構想の設計図を作る段階で1000億円弱に修正され、しかもその大部分は都構想と関係ない大阪市のままでも発言される効果額の数字であることが報道や議会で明らかにされています。二重行政解消による実質的な財政効果は1億円しかありませんでした。
現在、大阪府市で行われている法定協議会で示された特別区素案ではなんと財政効果については書かれていません(財源活用可能額とか意味不明のモノにかわっています)。
効果額が出ないということで、嘉悦学園に経済効果を算定させましたが、これも前提や根拠が無茶苦茶で法定協議会で議論できる代物でもないことが、大阪市会の大都市・税財政制度特別委員会で明らかとなっています。
ところで維新の堺市議会議員団は8000億の財源が生み出せるとか、さらに倍盛りしていたような記憶がありましたが、確認した所まだホームページに載せたままでした。いくらなんでも修正すべきだと思いますが。
■莫大な移行コストがかかりそう
「特別区」になると、例えば大阪市の場合は、今の大阪市役所の職員の多くが、特別区に配置されることになりますし、大阪市が分割されることで職員不足も発生し新たな職員を採用することになります。職員数が多すぎて、今の区役所には入りきりません。そうすると、新しい庁舎を建てるか、広い事務所を借りることになります。 今の計算では、庁舎を建てると約360億円、特別区に移行するにあたってもシステム改修が必要となり、このシステム改修費用と合わせると 「特別区」は初期費用だけで約560億円かかることになりますし、システム運用費用や新たに採用する職員の人件費を含めると10年で約1500億円かかることになります。 ちなみに、大阪市を政令指定都市のまま24行政区をそのまま総合区にするなら費用は0円です。
これは現時点で行政が直接支出するお金に限った話です。その他にも予見できないコストや、間接的に生じる支出や損失、住居表示変更に伴って発生する民間で負担するコストなどは含まれていません
■ニア・イズ・ベターからは程遠い区割り案
特別区に関しては、大阪都構想の当初の考え方のひとつには基礎自治体の「ニア・イズ・ベター」ということで、人口規模については財政歳出との相関関係から最適規模を30万人と言っていたのにもかかわらず、前回の住民投票の際に示された設計図では、大阪市を5つの特別区に分割したことで、最大69万人の特別区となっていました。
現在、大阪府市で検討されている特別区素案では、前回の5区から4区とさらに特別区の規模が大きくなり、人口規模が、59.6万人~74.9万人の特別区となっています。
これで「ニア・イズ・ベター」になったとは言えません。
世間的に「大阪都構想」や「都構想」という名称が定着しておりますが、大阪府は「大阪都」にはなりません。都構想の根拠となる法律である「特別区設置法」には“特別区を設置するための手続き”が書かれているだけで、道府県の名称を「都」にする規定など一切ありません。現行の法令では「大阪府」は「大阪府」のままです。
大阪市が廃止分割されて特別区が設置される制度変更に過ぎないものにもかかわらず、マスコミなどもこぞってこの詐欺めいた呼称を使い続けることは、あたかも大阪が東京のような都市として発展するかのようなイメージを有権者に植え付け扇動することに他ならず、市民が大きな誤解をしたまま投票行動をとりかねないと強い懸念を感じます。
■二重行政から三重行政へ。
大阪市を分割した場合、本来は、広域と基礎にわかれるはずです。それなのに、例えば特別区のシステム運用や介護保険事業などは一部事務組合という組織に委ねてすべての特別区で共同運用することになります。そもそも、一部事務組合を設置しない時点で、大阪市を廃止分割せず大阪市を一つの自治体として残すべきということになるのですが。
そのように、都構想にしたいといことだけで、大阪市を廃止分割した結果、予算規模2565億円というとてつもなく巨大な一部事務組合が生まれ、「府>一部事務組合>特別区」という、いわば三重行政が生じることになりました。
異常に巨大な一部事務組合の誕生で、基礎自治体の業務とは不可欠で市民生活に直結する事業事務が、複雑化するばかりでなく役割分担も責任の所在もあやふやとなるなど、極めて非効率で不安定な行政組織となっています。このまま実現すれば、府民、市民生活に重大な悪影響を及ぼすことは確実です。
■一度特別区になったら二度と市には戻りません。
実は、特別区の分割や合併、編入などは市町村の分割や合併、編入などとは別の規定が設けられています(地方自治法第7条、第281条の4)。これは、特別区の場合は、市町村とはことなり限定的にしか認められていないということです。
法律では、特別区の「区域を含んで新たに市町村を設置することや、特別区を今ある市町村に編入することは認められていません。よって特別区の区域は拡大することはあっても縮小することはありません。
ということは、一度、特別区になったら、二度と市町村には戻れないということです。「いっぺんやらしてみたら良いやん」みたいなことを言われますが、そんなことはできないのです。
■堺市など特別区隣接自治体は住民投票なく特別区になってしまう。
すでに設置された特別区に隣接する自治体は、分割せずそのまま1つの特別区となる場合、住民投票なしで特別区になれます。「なれます。」とか言われても困りますが、「特別区設置法」にそう定められています(第13条の2項)。
(はっきり申し上げてこれは「大都市地域における特別区の設置に関する法律」の欠陥です。この点については、今後、自民党の国会議員を通じて法改正を求めて行かなければならないと感じています。)
この条件には堺市も当てはまります。つまり、堺市においては市(首長)の決定と議会の承認だけで、政令市の廃止が決まってしまう可能性があるのです。もしかしたら、市(首長)は特別区になることを決定したが、議会が承認しなかった場合、突然、市長が身勝手な出直し市長選挙を強行し、対抗馬が出てこないままに勝利したら、市長の「専決処分」で堺市が特別区にされるかもしれません。
だから、今回の市長選挙は都構想が争点であり、自治都市・堺市にとっても重要な選挙になるわけです。
■特別区民は、府税で負担すべき事業に、市町村税を使われ、税を二重負担させられる。
例えば、現在大阪市が管理している鶴見緑地公園や大阪城公園は、都構想になると広域事業ということで、大阪府の事業に仕分けされます。その場合、府営の公園となります。しかし、大阪城公園の費用については、大阪市の市町村税であった固定資産税などが調整財源ということで都税になり、この調整財源から賄われることになります。
現在、府営・大泉公園の経費は府税が充てられています。府営ですから当然です。府営・鶴見緑地公園や府営・大阪城公園になった際には、本来は、大阪府税を充てるべきなのですが、都構想では、大阪市民や堺市民は、本来は市町村税であった固定資産税などから負担させられます。
ようは、特別区民だけが、この公園の例のように、様々な場面で府税と市町村税とで二重の税負担を強いられることになるのです。その結果、言わずもがな、本来は基礎自治の業務にあてるべき市町村税であった調整財源からの配分がなくなり、市民サービスが低下していくのです。
■国が、地方交付税制度で国民に保障しているナショナルミニマムの行政サービスの基準すら守られない恐れがある。
地方交付税制度の説明をすると大変難しく、かつ大変な時間を要しますので詳しい説明はできないことをお許しください。
地方交付税制度とは、基礎自治体から受けられる行政サービスの最低基準を設けて、その分の財源を国の責任で配分して保障するという、国民がどこに住んでいても平等に行政サービスをうけられるというものです。
大阪市の場合は分割されることで、本来はこのナショナルミニマムとして保障されている金額は4つの特別区の分を合計すると、大阪市より多くなるのです。しかし、国は、都区制度のなかでは、その分は保障しないことになっています。
これが、国の地方制度調査会という専門家の会議で専門家の発言に出てきた「大阪市民があえて茨の道を歩むなら」という言葉になっています。
東京都の場合は、地方交付税の不交付団体で1兆円を優に超える財政的余裕があるから、国の地方交付税制度の基準より多くのモノを、東京都が特別区に保証しています。
大阪の場合は、大阪府も大阪市も堺市も地方交付税の交付団体です。
地方交付税をもらう基準が、低くなる以上、市民サービスが維持されるということは、ありえない話になります。
やはり堺市は政令指定都市として発展していくことが、望ましいのではないでしょうか?
こうして大阪都構想の問題点を検討してこると、改めて私は力強く、NO!都構想を訴えていきたいという考えを強くいたしました。
※この記事は以前に当ブログで書かれた「大阪都構想のここがヤバいよワースト10」を、2019年5月24日の状況に合わせて、加筆・編集したものをベースにしております。