野村ともあき【非公式】ブログ|前堺市議会議員

野村ともあきの非公式ブログです。前堺市議会議員 公式ブログは→https://note.com/nomuratomoaki/

保守派のための「反カジノ」論(その1)事業上の課題について

大阪で誘致が進む「カジノを含む統合型リゾート施設」(以下、カジノ・IR)の関連議案が大阪府議会、大阪市会に上程され、審議が続いている。

3月14日現在、審議は山場を迎えており、今月末の本会議で議案が可決されると、大阪へのカジノ・IRの整備が事実上「確定」する。

その後は、議会、住民らの関与はほとんどできないまま、2029年末(予定)の開業まで一気に進む公算が高い。

 

2029年のカジノ計画がまさか今年に決まるとは知らない方も大勢いるようで、説明すると驚かれることが多い。また、あくまで大阪市内の話だと思われているのか、大阪市以外の住民の方の関心は著しく低い印象を受ける。

 

結論から言うとこのカジノ整備計画は、事業的にも、政策的にも、防災の観点からも、倫理的な側面からもかなりマズイことになっていて、「絶対にやったらアカンレベル」の内容である。

 

しかしながら、大阪府・市の議会構成的に、この流れを止めるのは難しそうだ。
大阪府市の議会で過半数を占める維新と公明党会派はカジノ・IRの推進派である。
自民党は府市両議会と会派内で賛否両論見られるが、国政で自党が進めてきた政策だけに正面切って反対しづらいジレンマがあるようだ。
現状、カジノを強く批判しているのはリベラル・左派陣営のみであり、議決が目前に迫る中、彼らの反対運動は熱を帯びている。

 

このような背景があるためか、「カジノを推進しているのは保守派で、反対しているのは左派」という漠然としたイメージが世間に浸透している。
安倍・菅政権の影響も少なくないだろう。

 

(安倍・菅・維新が保守なのかという議論はさておき)私が別稿で繰り返し書いてきた通り、「経済的な政策志向」と「思想信条」は直接的にイコールで結ばれるものではない。
むしろ「カジノ推進」は誰がどう見ても「保守主義」に根ざした政策ではないと断言できる。

 

理由は一言で済む。

大阪のカジノは「日本人の不幸の上に成り立つ事業」だからだ。

 

現状、大阪で進められているカジノ政策は、『外国人(というか中国人)を日本にどんどん呼び込むことを目指して、外資を含むカジノ企業に土地を最大65年間格安で提供し、ついでに土地の改良費名目で790億円もの公金をくれてやり、電車もインフラも敷いてやり、「博打」の上前で成長を目指す』というものである。

 

絵に描いたような「売国政策」である。

 

これだけでも地獄絵図の様相だが、現在の「カジノ計画」はさらに内容が悪化していて、あろうことか日本人を食いものにしようとする方針に大きく舵が切られているのである。

 

先般、事業者が提示した計画は、当初「外国人2200億円:日本人1600億円」だった収益の想定を「外国人2200億円:日本人2700億円」に変更した。また来場者想定は外国人629万人に対し日本人が1358万人と、完全に日本人をターゲットにした内容へと変更されている。

さらに日本人等国内在住者のみが支払う6000円の入場料収入(国と折半のため都道府県等に入るのは3000円)は、当初130億円だったものが、計画では320億円と約2.5倍に修正された。

事業者は株主向けの説明会で「客は全員日本人、日本人だけでどれだけ回るか、その前提でプランニングを作っている」と述べたという。

 

百万歩譲って、外貨を獲得できるのであれば、経済成長に資する側面もあったかもしれない。しかし今の計画は、外国企業を含んだカジノ業者が日本人から「賭博」で金を巻き上げる事業モデルとなっているのである。

 

「保守」を自認する政治家の皆さん方は、この構図を見てどう感じたか、是非教えていただきたいと思う。

 

事業計画にはカジノの凄まじい売上目標も記されている。
カジノ側の粗利は4900億円、粗利から試算した賭け金の総額は7兆円、来場者2000万人(すべて年間)。にわかには信じ難い数字だが、これだけの人と金が大阪湾の孤島のカジノ一か所に飲み込まれるのである。飲食、物販、宿泊、娯楽消費など、間接的な支出まで含めれば、額はもっと膨れ上がるだろう。
キタやミナミなどの市内経済は大ダメージを受けることは間違いない。

 

地域経済は、衣食住など生活に身近な製品やサービスを、その地域の人が提供し、地域の人が消費することで成り立っている。「経済を回す」というのはそういうことだ。
しかしカジノはこの循環を断ち切り、対価のない賭博行為で人々の日々の稼ぎをかすめ取る。
依存症や借金、生活の破綻、治安の悪化など二次的な負のコストも膨大なものとなるだろう。これは、ギャンブルにハマった個人の「自己責任」や「自業自得」で済む話ではない。そのツケはじわじわと大阪経済を痛めつけ、そこに住む私たちの生活を蝕んでいくこととなる。

 

まさに「亡国の政策」である。

 

どんな理由があれば、このような政策に賛同し、推進することができるのだろうか。

 

さて、この悪夢のような政策に大阪市はすでに2000億円近くを突っ込んでいる。しかもこれは実際に計上された予算支出のみの額である。間接的なコストや本来負担する必要のなかったコスト、これから確実に必要となる関連コストなどを積み上げると、恐らくこの数倍では収まらない額になるのは間違いない。

 

例えば、すでに夢洲のIR以外のエリアの土地改良には1580億円がかかると試算されているほか、夢洲が廃棄物処分場として使用できなくなることで生じる代替地のためのコストや、ギャンブル依存症の対策費、治安悪化に備えて警察官を増員するための経費なども確実に必要とされている。

また、現在すでに着手済みの万博会場の整備や、地盤改良、渋滞解消、災害対策などの経費も青天井で膨れ上がっていくことになるだろう。

 

これに対して、松井一郎市長は毎年550億円のカジノのアガリ(納付金)があることを理由に財政支出を正当化している。

しかしこの額は、カジノ事業者が自ら出してきた売上目標から算出したものでいわば「お手盛り」の数字である。

 

非常に細かくなるので詳細は別稿に譲るが、本当にこの数字を達成しようとすれば、年間7兆円の賭け金が必要であり、365日24時間カジノを満席状態で回す必要があり、来日した外国人旅行者には平均的に買い物や娯楽に費やす以上の額をすべてカジノで擦ってもらわなければならない。

 

無理である。

 

ついでに、賭け金7兆円、粗利益4900億円、入場者2000万人という数字がどれくらいの水準か列挙しておく。

  • 観光庁の統計によると、来訪者数が過去最高を記録した2019年の外国人旅行者が国内で消費した金額の合計は4兆8135億円であった。
  • 中央競馬の売上は3兆円、競艇は2兆円、パチンコ業界の売上は日本全体で15兆円である。
  • MGMが世界で運営する29のカジノ総売上(賭け金合計)は14兆円である。
  • シンガポールのど真ん中にある「マリーナ・ベイ・サンズ」のカジノの粗利益は2400億円、ユニバーサル・スタジオ・シンガポールがある「リゾート・ワールド・セントーサ」のそれは1300億円である。
  • ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの2018年の来場者は年間1430万人だった。

以上の数字を見てどう感じられただろうか。どうか冷静に比較していただきたい。

 

このような荒唐無稽としか言いようのない数字を並べ立てて、それを根拠に莫大な血税を支出する。事業者もそれに加担する行政もやってることは詐欺に近い。

カジノ・IRの事業主体である「大阪IR株式会社」に出資する少数株主、融資を担当する金融機関は、日本を代表する名だたる企業ばかりだが、この「社会的倫理」から大きく逸脱した事業の片棒を担ぐことに疑問や抵抗感はないのだろうか。

 

なお「大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画(案)」は下記で公表されている。

大阪府/大阪・夢洲地区特定複合観光施設区域の整備に関する計画

 

以上、今回は「事業モデル」を中心に大阪カジノ・IRの課題について解説した。

次回は、会場となる「夢洲」の地勢的リスクについてお示したいと思う。

 

-----
(追記)本記事は近日中に公開される予定の別サイトに寄稿した記事を元にしています。重複する部分は多々ありますが、当該記事ではより詳細に課題検証を行っておりますので、公開されましたらあわせてご覧いただければと存じます。